第43章 ― 神々は“殺し方”を思い出した

彼らは、浮かぶのをやめた。


それだけで、十分だった。


残る四体が降下する。

ゆっくり。

確実に。


裁く者ではない。

首を絞める処刑人として。


空が暗くなる。


雲ではない。


意思だ。


「血の流れが、おかしいな」

一体が言った。


声はもはや神託ではなかった。

静かで。

近い。


アレンは手の甲で口元を拭う。


血。

黒すぎる。

遅すぎる。


「……ああ」

掠れ声。

「大事なもん、壊されたらしい」


別の神が手を上げる。


現実が内側に折れる。


避けた――遅い。


不可視の“何か”が脇腹を貫いた。

悲鳴が解き放たれ、

彼は崩れた尖塔へ叩きつけられる。


今度は、跳ね返らなかった。


潰れる。


骨が繋がらない。

エコーが遅延する。

再生が、死にかけの鼓動になる。


立ち上がろうとして――失敗。


それでも笑う。


「やっとだな」

血を吐きながら。

「手、汚す気になったか」



裏切る記憶。


図書館。


ルネスラは向かいに座り、

膝を抱え、ページを開かないままだった。

不自然なほど綺麗な光。


「あなた、怖がられてる」

静かな声。


「知るか」


「私は……気にする」


見上げると、

彼女は責めていなかった。


恐れていた。


彼のために。


「そんなふうに空を睨み続けたら」

囁き。

「いつか、睨み返される」


彼は鼻で笑った。

「上等だ」


本を握る指が、震えた。


「……約束して」


彼は答えなかった。


その沈黙が――

全ての始まりだった。



権能の脚が胸を踏み抜く。


肋骨が内側に潰れる。


心臓が狂う。


もう一撃。

さらに一撃。


殺していない。


思い出させている。


「お前は許容されていただけだ」

冷たい声。

「我らが許した欠陥だ」


激しく咳き込む。


血が神石を染める。


「……笑えるな」

喘ぎ声。

「それ、あいつも言ってた」


空気が凍る。


一体が、遅れた。


アレンの手が跳ね上がり、

足首を掴む。

エコーが悲鳴を上げ、

肩が外れる。


関係ない。


引きずり下ろす。


額を叩きつける。

何度も。


光が爆ぜ、

存在が崩れる。


アレンは叫んだ。


怒りじゃない。


喪失だ。


「お前らが!!」

「彼女を!!」

「一人にしたんだ!!」


衝撃波。


二体が吹き飛び、

権能の翼が砕ける。


アレンは膝をついた。


視界が狭まる。


鼓動が乱れる。

エコーが警告を叫ぶ。


「……ルネスラ」


叫びじゃない。


願いだ。


応答があった。


上からじゃない。


内側から。


世界が揺れる。


神圧ではない。


それでも――立ち上がった。


残りは二体。


また、躊躇。


悪手だ。


血と瓦礫を引きずり、

アレンは前に出る。


「言ったはずだ」

声が割れる。

「思い出させてやるって」


瞳が燃える。


赤じゃない。


黒だ。


そして空は――


自分が何を蘇らせたか、

ようやく理解した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る