第40章 ― 彼女の名が“武器”になった夜

最初の神は、彼女の名を口にしようとした。


その音が終わる前に、

アレン・ノクティルは喉を引き裂いた。


血――いや、それよりも濃い何かが、

砕けた空に飛び散り、落下しながら燃え上がる。

神は彼の手の中で痙攣し、神性が内側から崩壊していった。


「言うなァァァ!!」


アレンの叫びは裂けていた。

「その名を……お前らが口にする資格はない!!」


身体は消えた。


消滅でも、浄化でもない。


“抹消”だった。


残った神々が後退する。


もう遅い。


その瞬間、記憶が彼を殴った。


優しさなどない。

慈悲もない。



かつて彼女は笑っていた。

まだ“永遠”を信じていた空の下で。


「いつも世界が終わる顔してるわね」

ルネスラはそう言って、首を傾げた。

銀光が髪を揺らしていた。


アレンは視線を逸らした。

「俺は、ここにいるべきじゃない」


それでも彼女は近づいた。


「じゃあ、いなさい」

ただ、それだけ。

「私と」



刃がアレンの脇腹を裂いた。


彼は叫んだ。

痛みではない。

怒りで。


エコーが爆発し、

襲撃者は動作の途中で押し潰された。

肋骨が砕け、光が悲鳴を上げながら折り畳まれる。


「覚えてるか?」

アレンは天に唸る。

「これが……お前らが奪ったものだ!!」


さらに一柱、降りてくる。


さらに一つ、過ち。


正面から叩き潰した。


衝突は空気を引き裂き、

衝撃波が遺跡を塵に変える。

アレンの腕が肩から切断された。


それでも止まらない。


残った手で神を掴み、

何度も、何度も、額を叩きつけた。


「彼女を殺した」


砕ける。


「見てただけだ」


砕ける。


「何もしなかった」


頭蓋が、崩れた。


アレンは立ち尽くす。

血に濡れ、震え、胸を激しく上下させながら。


殺戮の中に、記憶が滲む。


髪に触れた指。

夜の静かな声。

名を、意味あるものとして呼ぶ声。



「約束して」

ルネスラは囁いた。

「もし堕ちても……消えないで」


アレンは笑った。

「俺は光る側じゃない」


彼女は少し悲しそうに微笑んだ。

「だからこそ、彼らはあなたを恐れるの」



裁きの槍がアレンの背を貫いた。


彼は吠えた。


屈服ではない。


反逆だ。


「見ろォォ!!」

「これがお前らの作ったものだ!!」


エコーが咆哮する。


戦場は赤光に沈んだ。


その時、天は理解した。


彼らが生み出したのは、

神殺しではない。


“死ななかった記憶”だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る