第38章—空が処刑人を放った日

空が悲鳴を上げた。


雷でも、

稲妻でもない。


命令だった。


現実が裂け、天の層が剥がれ落ちる。骨から皮を引き剥がすように、巨大な円環紋が空に焼き付けられる。


神ではない。


それ以下でもない。


処刑人だ。


アレン・ノクティルは即座に理解した。


「……やっと本気かよ」


【記録核警告】

【分類:スカイグレイヴ執行者】

【脅威度:壊滅級】

【推奨:撤退】


アレンは笑った。


乾いた、壊れた笑いだ。


「クソ喰らえだ」


六体が降り立つ。


顔はない。

翼もない。

法と罰を凝縮した身体。


武器は光らない。


存在を消す。


最初の一体が動いた。


前触れなし。


刃がアレンの胴体を貫いた。


綺麗すぎるほどに。


身体が真っ二つになる。


血が爆ぜる。


一瞬—


世界が止まる。


次の瞬間、エコーが絶叫した。


肉体が無理やり引き戻され、歪に縫合される。神経が再点火し、激痛が押し寄せる。


「ぐあああああッ!!」


再び刃。


今度は掴んだ。


触れた瞬間、手が溶け始める。


皮膚が剥がれ、

骨が塵になる。


それでも離さない。


引き寄せ、頭突きを叩き込む。


仮面が砕けた。


中には—


空虚。


回転する数式と、悲鳴を上げる演算。


アレンは吼え、引き裂いた。


血は流れない。


“失敗”しただけだ。


残り五体。


隊列を組み、同時に襲う。


怒りも恐怖もない。


機能だけ。


アレンは串刺しにされ、

押し潰され、

断片的に存在を消された。


その度に—


エコーが引き戻す。


その度に—


遅くなる。


苛烈になる。


「俺が死ぬのが怖いとでも思ってんのかァァァ!!」


拳を地面に叩きつける。


エコーが下方へ爆発。


遺跡が完全崩壊し、三体の処刑人を空間の裂け目へ引きずり込む。


残り二体。


一瞬、停止。


演算更新。


アレンは気づいた。


「……学習してやがるな」


二体が融合する。


一つの身体。

一つの意志。


絶対の刃が形成された。


振り下ろされる。


肩から腰まで貫かれ、地面に縫い止められる。


血が肺を満たす。


視界が揺れる。


空が近づく。


「……ルネスラ……」


答えはない。


だが――


別の“何か”が応えた。


深く、

冷たく、

太古のもの。


エコーが沈黙する。


そして——


語りかけた。


『空を壊したいか』


アレンの目が見開かれる。


「……ああ」


刃が砕け散る。


融合体が内側から爆ぜる。


その瞬間――


空が、退いた。

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