第37章—恐怖が祈りを覚えた時

彼らは、ついに同時に動いた。


自信からではない。


恐怖からだ。


五柱の神性が一斉に降下し、その存在が重なり合い、空気を圧殺する。空は歪み、雲は腐った肉のように裂け落ちた。


アレン・ノクティルは、よろめいた。


再生が鈍る。


止まってはいない。


だが、明確に遅い。


血が溢れ、コートを染め、指先から滴り落ちる。エコーが内側で悲鳴を上げていた――使いすぎだ。


「ハハ……」彼は嗄れた声で笑った。

「やっとかよ」


『拘束せよ』


神の法則が編まれる。


鎖――

金属でも光でもない。


裁定。

服従。

終焉。


概念そのものが、アレンの四肢、背骨、喉に絡みついた。


彼は咆哮した。


叫びではない。


獣の叫びだ。


「どけええええええッ!!」


エコーが暴発する。


鎖が軋む。


完全には砕けない。


だが――緩んだ。


一柱が、怯んだ。


それで十分だった。


アレンが踏み込む。


速すぎる。


拳が神の胸を打ち抜いた。


抵抗があり――


次の瞬間、崩壊。


神の構造が内側に折れ、祈りの叫びは途中で潰れ、核が砕け散る。


残り三柱。


もはや迷いはない。


刃。

消滅波。

触れた物質を抹消する槍。


突進の最中、アレンの身体が引き裂かれた。


左腕が消える。


肋骨が爆ぜる。


顔の半分が吹き飛ぶ。


それでも――


彼は止まらない。


それでも――


笑っていた。


血を撒き散らしながら、空中の一柱に体当たりし、地上へ叩き落とす。遺跡を貫き、石と水晶を粉砕しながら墜落する。


神が言葉を紡ごうとした。


アレンは、その頭を潰した。


二柱目。


残った神々が叫ぶ。


怒りではない。


恐怖だ。


『撤退せよ』


アレンは聞いた。


そして笑った。


「遅ぇんだよ」


エコーが燃えた。


暴走ではない。


燃焼。


再生は激痛となり、肉は歪み、神経が絶叫する。それでも彼は動いた。


最後の一柱の顔を掴む。


光が激しく揺れる。


『やめ――』


バキリ、と音がした。


頭蓋が崩れ、光が消える。


沈黙。


神聖でも、

安らぎでもない。


空虚。


アレンは片膝をつき――

そして両膝を地についた。


血が、足元に溜まる。


呼吸は壊れ、荒い。


「……ルネスラ……」


答えはない。


空は、まだ裂けたまま。


そしてその向こうで――


神よりも古い“何か”が、

確かに彼を見ていた。

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