第36章 ― 躊躇した神々

彼らは、一斉には降りてこなかった。


その一瞬の躊躇――

その、ほんの僅かな間。


アレン・ノクティルは、それを肌で感じ取った。


「……いい」


彼は低く呟いた。


砕けていた腕が、湿った音を立てて再生を終える。骨が戻り、肉が塞がり、血が蒸気となって消える。


空では、残った神々が揺れていた。


退かない。

だが、踏み込まない。


見ている。


七柱が来た。

すでに一柱は消えた。


その“欠落”が、死そのものより雄弁だった。


『貴様は、踏み越えた』


崩れ落ちる神殿のような声。


アレンは頭を仰け反らせ、笑った。


口から血が溢れ、歯を赤く染める。


「踏み越えた?」

彼は叫んだ。

「てめぇらが俺の空を奪ったんだろうが!!」


再び圧が降り注ぐ。


今度は――

明確な殺意。


地面が爆ぜ、アレンの脚が砕けた大地に沈む。筋が裂け、肉が悲鳴を上げる。


それでも――


彼は跪かない。


足を、さらに踏み締めた。


エコーが暴走する。


制御もなく、

整合もなく、


ただ“剥き出し”。


空気が破裂した。


二柱目が降りてきた。

速すぎる。

怒りすぎている。


神威の槍が空を裂いた。


アレンは避けなかった。


槍は胴体を貫き、

背後へ突き抜け、


彼を地面に縫い留めた。


一瞬――

すべてが止まる。


次の瞬間、アレンは両手で槍を掴んだ。


血が噴き出す。


血管が黒ずむ。


「てめぇらは――」激しく咳き込みながら叫ぶ。

「――俺を貫く資格なんざ、ねぇんだよ!!」


引き抜く。


神が悲鳴を上げた。


祈りの中でガラスが砕けるような音。


アレンは槍を振り上げ――


降下してきた神の頭部を、正面から貫いた。


光が爆発する。


頭部が、神性と記憶の破片となって弾けた。


身体が一度だけ痙攣し――


塵となって崩れ落ちる。


沈黙。


重く、

歪んだ沈黙。


アレンは立っていた。

胸は潰れ、再生が初めて追いつかない。


荒い息。


震える指。


歪んだ笑み。


「……二柱目だ」


残る神々が、明確に後退した。


本当に――後退した。


声が、砕けた調子で響く。


『貴様は……王座破壊者に成りつつある』


アレンは目の血を拭った。


「……違う」


紅い視線が、真っ直ぐ空を貫く。


「もう、とっくになってる」


エコーが咆哮した。


空が裂ける。


そして神々は理解した。


これは反逆ではない。


――これは、殲滅だ。

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