第32章 —裁きは、嘘だった
次は、単独では来なかった。
空が再び裂けた。
より広く、より醜く。
一筋の亀裂ではない。
同時に走る、複数の傷。
アレン・ノクティルは骨の奥でそれを感じ取った。
「……三体」
血を拭いながら呟く。
「いや……四体か」
四つの降臨。
四本の歪んだ光柱がアクシオン記録区へ叩き落とされ、
街は即座に墓場へ変わった。
人が死ぬ。
警告もなく。
慈悲もなく。
記録すらされず。
悲鳴が重なり、空気そのものが窒息していく。
『未許可干渉』
『神性観測者、展開』
――観測者。
“処刑人”を清潔に呼ぶための言葉。
アレンは瓦礫の中心で立っていた。
肩が震えている。
恐怖ではない。
抑えきれない怒りだ。
「もう喋らねぇのかよ!」
空へ叫ぶ。
「綺麗事も、同情も無しか!!」
一体の観測者が虚ろな視線を向けた。
半分は光。
半分は概念。
翼は拘束具のように折り畳まれている。
『存在:アレン・ノクティル』
『状態:異常』
『原因:ルネスラ・エコー』
名前が刃となって突き刺さる。
アレンは叫んだ。
外へではない。
内側へ。
「彼女の名前を――言うなァァァ!!」
地面が爆ぜた。
エコーが溢れ出す。
現実が歪み、建物が炎へ吸い寄せられる紙のように曲がる。
最も近い観測者が突進した。
――遅い。
アレンはその顔面を掴み、
地面へ叩きつける。
一度。
二度。
三度。
衝撃のたびに、街が書き換えられる。
光が血を流す。
概念が崩れる。
観測者は痛みではなく、
“エラー”で悲鳴を上げた。
『論理破綻』
『神性構造――』
「黙れェ!!!」
拳が頭部を貫いた。
法則の破片となって崩れ落ちる。
残る二体が同時に反撃。
裁きの槍がアレンの胴体を貫く。
血が翼のように噴き上がる。
「A――AAAAGHHH――!!」
片膝をつき、咳き込み、視界が揺れる。
一瞬――
本当に、一瞬だけ――
止まろうとした。
だが、彼女の笑顔が浮かんだ。
その瞬間。
何かが、完全に壊れた。
「システム戦がしたいって?」
立ち上がり、低く唸る。
「なら、記録から壊してやる」
エコーが限界を超える。
空が再び悲鳴を上げた。
一体が後退しようとした。
もう遅い。
「逃げられると思ったか」
アレンは素手で引き裂いた。
最後の一体が止まる。
初めて――
躊躇した。
血に塗れ、震え、壊れた呼吸で笑いながら、
アレンは囁く。
「帰れ」
「伝えろ」
観測者は即座に消失した。
静寂。
燃える死体。
崩れ落ちる建物。
遅すぎる警報音。
アレンは一人、立っていた。
【エコー安定度:崩壊】
【警告:死亡確率――】
無視。
空を見上げ、笑う。
「……今、怖いだろ」
遥か上空で――
神々は、確かに怯えていた。
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