第29章 —空が恐怖を覚えた日

映像が広がったのは、三分もかからなかった。


流出ではない。

ハッキングでもない。


――放送だった。


アクシオン記録区のすべての端末が一度だけ瞬き、


そこに映った。


アレン・ノクティル。


一人。

血に濡れ、

跪かない姿。


周囲の死体は、すでに冷え始めていた。


「緊急放送です……市民は直ちに避難を――」


声は震え、途中で途切れた。


代わりに、

焼き付くような文字が表示される。


【存在確認】

【スローン・ブレイカー ― 活動中】


混乱が爆発した。


叫び声。

逃走。

踏み潰される人影。


立ち尽くす者もいた。

神の制圧部隊を粉砕した“人間”の姿を、

ただ見つめて。


アレンは画面を見なかった。


見上げていた。


「……見てるな」


背後で、システムウィンドウが歪む。


【警告】

【複数の観測者を検知】

【分類:神格級】


「上等だ」


アレンの手は震えていた。


恐怖ではない。


抑え込みだ。


記憶が背骨を引き裂く。

鎖。

悲鳴。

裁きなき裁き。

銀光に染まるルネスラの血。


息が詰まり――


彼は叫んだ。


「降りてこいッ!!!」


空が割れた。


比喩ではない。


現実そのものが軋み、

銀の亀裂が天を走る。


遠い神域で、

神々が感じ取った。


膝をつく者。

逃げる者。

笑った者――そして黙った者。


時間で彫られた玉座の間が震える。


「……生きていたのか」


囁きが落ちる。


記録区で、

アレンは拳を握り締めた。


指の隙間から血が落ちる。


「消される側は終わりだ」


「頼むのもな」


システムが一度だけ脈動した。


【狩猟状態:開始】


その上で――


“何か”が、応えた。

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