第18章――終わらない刑罰
判決は、下されなかった。
それが、アレン・ノクティルが最初に理解したことだった。
神託はない。
雷鳴もない。
罪を刻む宣言もない。
あるのは――沈黙だけ。
彼は裁定の間の中心に立っていた。
翼は拘束され、身体は光なき空間に吊るされている。
神々は彼を見なかった。
彼の“向こう”を見ていた。
まるで、彼がすでに存在していないかのように。
「ここにいる理由は理解しているな」
声には怒りも憎しみもなかった。
ただ、疲労だけがあった。
アレンは顔を上げた。
「理解していない」
掠れた声で言う。
「俺の罪は――彼女を愛したことだ」
ざわめきが走る。
怒りではない。
不快感だ。
「口を慎め」
別の声が言う。
「貴様の存在は、彼女の慈悲によって許されていたに過ぎない」
アレンは笑った。
途中で、壊れた。
「許可……?」
「彼女は叫びながら死んだんだぞ」
「それで“許可”を語るのか」
光が収縮する。
次に来たのは痛み。
鋭くない。
即死でもない。
空が肋骨を押し潰すような圧迫感。
ゆっくり、確実に。
「彼女の名を口にするな」
最初の声が言った。
「その権利は失われた」
――何かが、切れた。
翼でも、肉体でもない。
理性だ。
「彼女はお前たちのものじゃない!」
アレンは叫んだ。
「彼女は俺を選んだ! 俺を信じた!」
圧が増す。
骨が軋み、視界が紅に染まる。
「神が選択に従うと思うな」
第三の声が告げる。
「その妄想こそが、終わらせる理由だ」
その瞬間、彼は“触れられた”。
痛みではない。
消去。
胸の奥。
記憶より古く、光より温かいもの。
――記録核。
「やめ――」
言葉は完成しなかった。
激痛が全てを塗り潰す。
核は砕けない。
爆ぜもしない。
剥がされる。
一層ずつ。
記憶一つずつ。
翼は燃える――炎ではなく、忘却で。
名が消え、声が鈍り、
空という概念すら薄れていく。
アレンは叫んだ。
喉が裂けるまで。
声が血になるまで。
反響すら、彼を見捨てるまで。
それでも、判決は出ない。
あるのは刑だけ。
「排除する」
光が潰れた。
アレンは堕ちる。
下ではない。
遠くへ。
天から。
ルネスラの空から。
痛みに意味があると信じていた自分から。
世界と世界の狭間へ消えながら、
一つの思考だけが残った。
もし、これが正義なら――
俺が、それを終わらせる。
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