第16章――名を持たない断罪
それは裁判ではなかった。
裁判には問いがある。
裁判には答えがある。
裁判には、無実の可能性がある。
だが、ここには何もなかった。
アレン・ノクティルは広間の中央に立たされていた。
光の鎖が手首に食い込み、
黒い翼が震えながら背中に折り畳まれている。
黒翼。
それだけで、十分だった。
囁きが大理石の壁を這う。
「不吉だ」
「逸脱だ」
「穢れだ」
誰一人、彼の名を呼ばない。
最上段には、管理者たちが座していた。
白翼。
金色の光輪。
そして――彼と目を合わせない視線。
アレンは探した。
たった一人。
だが、その席は空だった。
「……ルネスラ?」
その名は、この場では間違っていた。
人間的すぎて、
必死すぎた。
冷たい声が天上から降りてくる。
「アレン・ノクティル。
貴様は神殺しの罪に問われている」
言葉が刃となって突き刺さる。
神殺し。
息が詰まり、
そして、壊れた。
「違う……!」声が裂ける。
「俺が……そんなこと、するはずが……!」
「黙れ」
命令が肺を押し潰す。
光の鎖が締まる。
空中に映像が展開された。
砕けた身体。
床を染める銀の血。
転がる冠。
ルネスラ。
アレンは叫んだ。
「違う!!
俺を見ろ!!
俺の魂を見ろ!!
俺が何者か、分かるはずだろ!!」
誰も動かない。
誰も答えない。
「記録中枢は結論を下した」
声は続く。
「罪は確定。
犯人は――都合が良い」
都合が良い。
その言葉が、彼を空洞にした。
広間の脇から、一人が前に出た。
彼を育てた管理者。
文字を教え、
翼を整えてくれた存在。
その視線は伏せられていた。
「お願いだ……」
アレンは膝をついた。
鎖に引かれ、床に叩き伏せられる。
「何か言ってくれ。
俺を知ってるだろ。
俺がやらないって、分かってるだろ……」
沈黙。
それが判決だった。
広間が光を帯びる。
「アレン・ノクティル」
声が宣告する。
「天の権限により――
貴様の記録核を破壊する」
時間が砕けた。
胸を引き裂く、理解不能の痛み。
アレンは叫んだ。
怒りではない。
憎しみでもない。
ただの、信じられなさ。
翼が痙攣する。
光が背中から噴き出し、内側へと崩壊した。
黒い羽根が焼け、崩れ、消えていく。
感じた。
記憶も。
誓いも。
ルネスラの空の下でのすべてが――
引き裂かれる。
「やめろ……お願いだ……
何でもする……!」
叫びは虚無に溶けた。
光が消えたとき、
アレンは床に倒れていた。
翼は灰と化し、血が広がっている。
「……刑は?」
誰かが問う。
「追放だ」
声が答えた。
「天の外へ。
地獄の外へ。
虚無へ落とせ」
抗議はない。
慈悲もない。
別れもない。
床が開き、落下が始まる。
視界が歪む、その最後の瞬間――
彼は、彼女の声を聞いた気がした。
責める声ではない。
裁く声でもない。
ただ――名を呼ぶ声。
そして、空は閉じた。
アレン・ノクティルは、堕ちていった。
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