第12章 ― 彼は、沈黙する天に向かって叫んだ
彼女が見つかったのは、夜明けだった。
祭の最中ではない。
神灯の下でもない。
笑い声が天に残る時間でもなかった。
すべてが終わった後だった。
アクシオン記録区は静まり返っていた。
安らぎではない。
敬意でもない。
犯人が去った後の、現場のような沈黙だった。
アレン・ノクティルは遅れて到着した。
走った記憶はない。
誰に呼ばれたのかも覚えていない。
誰を押しのけたのかもわからない。
ただ――
彼女を見た瞬間だけを覚えていた。
ルネスラは、中枢柱にもたれるように座っていた。
倒れていない。
崩れていない。
座っていた。
まるで、そこを選んだかのように。
まるで、誰かを待っていたかのように。
銀の髪は光を失い、床に広がっていた。
両手は力なく垂れ、
瞳は閉じられていた。
――静かすぎた。
「……違う」
言葉が、思考より先に溢れ出た。
「違う……違う、違う、違う……!」
脚が崩れ落ちる。
膝が石床に打ちつけられ、
アレンは転がるように前へ進んだ。
「ルネスラ!!」
叫びが沈黙を引き裂いた。
管理者たちが身をすくめる。
目を逸らす者。
凍りつく者。
アレンは這うように彼女の元へ向かった。
姿なんてどうでもよかった。
誰が見ていようと関係なかった。
彼は彼女の肩を掴んだ。
――動かない。
冷たい。
死よりも、
“空”だった。
「起きろ……!」
「お願いだ……ここにいる……!」
激しく震える手で彼女を揺さぶり、
額を重ねた。
「一緒にいるって言っただろ……」
「約束しただろ……!」
声が裂け、
人のものではない嗚咽に変わる。
「全部、我慢した……!」
「耐えた……!」
掴む手に力がこもる。
「なのに……なんでお前が……!!」
システム表示が激しく揺れる。
【警告】
【精神安定度:臨界】
アレンは見なかった。
再び叫んだ。
天にあってはならない声。
失った者の、剥き出しの悲鳴。
誰かが近づこうとする。
彼は振り払った。
「触るな!!」
「彼女に……触るな!!」
管理者の一人が、泣きながら呟いた。
「……神核が……消えています」
消えた。
砕けたのではない。
壊れたのでもない。
消えた。
アレンの呼吸が詰まる。
「……消えた?」
壊れた笑いが漏れた。
「なら……戻せ……」
「探せ……直せ……」
誰も答えなかった。
できないからだ。
笑いは嗚咽に変わり、
彼は彼女を抱きしめたまま、揺れ続けた。
「……無理だ……」
「お前なしで……生き方がわからない……」
囁きは、彼女の髪に沈む。
「……息の仕方も……」
空は、何もしなかった。
雷もない。
神の嘆きもない。
天の悲鳴もない。
――何も。
アレンは、ゆっくりと顔を上げた。
涙に濡れた紅い瞳。
その奥で、何かが冷たく燃えていた。
「……見てるんだろ」
「全部の神どもが」
視線が、偽りの永遠へ向けられる。
「……これを、許したんだな」
そして――
叫び。
言葉にならない、喪失と怒りの咆哮が天を裂いた。
最後に、システムが告げる。
【事象登録】
【女神ルネスラ ― 死亡】
アレンは見なかった。
彼は、彼女を抱きしめ続けた。
そして――
彼の中で、何かが永遠に壊れた。
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