第10章 ― 祭りの前夜
四季祭の前夜は、不自然なほど静かだった。
静かすぎる。
アクシオン記録区は宙光に照らされ、
調和を象徴する紋様が道を彩っている。
準備は完了。
警報なし。
異常報告もない。
それでも――
アレン・ノクティルは眠れなかった。
割り当てられた簡素な休息台に横たわり、
片腕で目を覆い、
閉じた瞼の奥を見つめていた。
目を閉じるたび、
同じ感覚が戻ってくる。
圧迫。
肉体ではなく――
存在そのものへの。
【休息推奨:無視】
【精神負荷:上昇】
「監視するな」
【修正:私は静止しています】
「それが一番厄介だ」
彼は起き上がり、足を床に下ろす。
部屋には、記録導管の微かな駆動音だけが響く。
すべてを観測する流れ。
意図だけを除いて。
アレンは窓へ近づいた。
外の空は完璧だった。
星は固定され、
月は揃っている。
完璧すぎる。
「……明日か」
四季祭は、ルネスラにとって
均衡を示すための儀式。
天界がまだ“正常”であるという演出。
必要とされる舞台。
背後で、空気が揺れた。
「起きていたのね」
振り返らずに答える。
「最初から眠ってない」
ルネスラが立っていた。
儀礼衣ではなく、
簡素な白。
守りも飾りもない姿。
疲れているように見えた。
肉体ではない。
存在として。
「休みなさい」
「明日は長い」
「結果はもっと長い」
彼女は微笑んだ。
「珍しいわね」
「大事な前夜は、もっと静かな人なのに」
「演出が嫌いなんだ」
「観客が不安な時は特に」
彼女は隣に立つ。
「覚えてる?」
「私が昇格して初めての祭り」
彼は頷く。
「夏を半呼吸、失った」
「あなたが勝手に補正した」
「いつもそう」
アレンは黙った。
星が、わずかに揺れる。
「正直に答えて」
「明日、もし狂ったら……介入する?」
彼は彼女を見る。
書庫でインクを零して笑った女神。
誰も呼ばなかった名を、
自然に呼んだ声。
「する」
即答だった。
彼女は息を吐く。
「……それが怖いの」
沈黙。
やがて、彼女が言った。
「もし私に何かあったら」
「彼らに“物語”を決めさせないで」
アレンの紅眼が燃える。
「何も起きない」
彼女は微笑んだ。
「答えになってないわ」
彼は近づく。
「記憶みたいな言い方をするな」
一瞬、
恐怖と覚悟が交差した。
そして消えた。
「おやすみ、アレン」
彼女は去った。
アレンは窓の前に立ち尽くす。
天は息を潜めていた。
そして視界の外で、
何かが数を数えていた。
祝福ではなく――
選別のために。
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