第5章 ― 近づく祝祭
収束の祝祭は、翌朝に告げられた。
それは祝福としてではなく、
避けられない出来事として現れた。
高位回廊には光の旗が展開され、
均衡、秩序、再生を象徴する紋章が揺れる。
合唱隊は調和を讃える讃歌を練習し、
季節の循環と完成を歌い上げていた。
すべてが完璧だった。
あまりにも。
アレン・ノクティルは距離を置いて、
準備が加速していく様子を見つめていた。
天使たちは訓練された正確さで動き、
必要な時だけ微笑み、
それ以外は沈黙を守る。
彼に、協力要請はなかった。
それは明確な禁止よりも、
重い意味を持っていた。
本来なら、
彼の存在は必要とされたはずだ。
神的収束における“守護”の象徴として。
今の彼は、
背景に追いやられている。
方程式から外された変数。
管理者の言葉が、脳裏に残る。
光るものすべてが、見られるためにあるわけじゃない。
アレンは回廊を離れ、
下層の通路へと降りた。
空気は重く、
光は冷たい。
ここでは観測は露骨ではない。
建築、共鳴場、
自己更新する記録の中に埋め込まれている。
【観測密度:上昇】
システムの声が、
無感情に告げる。
アレンは応じなかった。
封鎖された広間の前で立ち止まる。
その表面に、
ぼんやりと自分の姿が映る。
一瞬、誰だか分からなかった。
翼はある。
位階も、失われてはいない。
だが、
彼を取り巻く空間が薄い。
消えても、
穴が残らないかのように。
「まだだ」
彼は低く呟いた。
一方で、
ルネスラは準備の中心に立っていた。
側仕えたちが周囲を巡り、
儀式装束を整え、
彼女の肌の上に浮かぶ紋様を調整する。
正確で、
敬意に満ちていて——
距離があった。
彼女は感じていた。
彼らは、
“彼女”に触れていない。
“概念”を扱っている。
「進行順が変更されました」
一人が淡々と言う。
「第三調和周期の後にご登場いただきます」
ルネスラの指が、僅かに曲がる。
「元の順ではなかったはず」
「合意が変わりました」
誰の合意か、
彼女は聞かなかった。
知っていたから。
後に、
彼女は休息を理由に全員を下がらせた。
一人になった瞬間、
保っていた均衡が崩れる。
胸に手を当てる。
違和感。
痛みでも、
恐怖でもない。
距離。
共鳴の一部が、
静かに遮断されている。
「……アレン」
遠く離れた場所で、
アレンもそれを感じていた。
揺らぎ。
不整合。
特定はできない。
だが、確信には十分だった。
干渉している。
その夕刻、
初めて明確な拒絶が現れた。
「これ以上の通行は許可されていません」
歩哨が翼を広げ、道を塞ぐ。
アレンは彼を見た。
「俺は、お前より下位じゃない」
「はい」
歩哨は答える。
「ですが、命令は上位です」
アレンは薄く笑った。
「誰の?」
沈黙。
それが答えだった。
彼は一歩引いた。
敗北ではない。
計算だ。
今、力を使えば、
物語が確定する。
物語は、
武器だ。
夜、
天界の空は儀式的な光で脈打つ。
祝祭は、確実に近づいていた。
自室で、
アレンは目を閉じて立つ。
「収束点を隔離してるな」
彼は言った。
【確認】
「恐れている」
【可能性:高】
彼は目を開いた。
「結構だ」
神的秩序の幾層もの下で、
何かが動いた。
反乱ではない。
準備だ。
そして天界は、
気づかぬまま——
あるいは認めぬまま、
微笑み続けていた。
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