第8話『知り尽くすルートを確認してみる』

 実技授業後の休み時間、カイトには悪いけど「トイレへ行く」と嘘を言って離脱した。


 夢が覚めるかどうかを考えたいところだが、たぶん意味はない。

 でも夢が終わる条件については考えてみた。


 1つは、ゲームをクリアすること。

 どのルートを攻略したらいいのかわからないけど、単純に考えるなら表ルートでも裏ルートでも、その数ある選択肢のどれかをクリアしたらいいはず。

 回避しなければならないルートは、エンドコンテンツの自分が死んで終わるルートだ。


 2つは、単純に死ぬこと。

 どんな夢でも自分が命を落としたら覚めると相場が決まって……いると信じたい。

 今すぐ試すことはできるけど――さすがに勇気がない、という話。


「……」


 空を見て、別のことも考える。


 先に挙げた選択肢が繋がる、別の選択肢。

 それは、俺がゲームの世界に閉じ込められてしまった、もしくは転生してしまった、というもの。


 創作物的に考えると、別に珍しい話ではない。

 いろんなゲームをするたびに、『自分がもしもこの世界に入ってしまったら』と考えることは少なくもなかった。


 最後の記憶を思い返せば、たしかに疲弊しきって――というよりゲームのやりすぎで睡眠不足や日頃の疲れが蓄積されていたことを鮮明に憶えている。


「――」


 左手で指パッチンをする。


 この行為はダウンロードコンテンツでプレイすることができた主人公の親友である、【ミナト】のサイドストーリーにて知ったもの。

 エンドコンテンツのラスボス戦でも披露していた行為でもある。


『カーッ』

「マジか」


 どこから現れたのかわからないけど、純白の烏が飛んできたから着地用に左腕を少し上げる。

 その烏は攻撃的ではなく、すんなりと上げた腕に止まった。


 烏をまじまじと見ること自体が初めてで抵抗感が少しあるけど、目をパチパチとさせたり首を傾げる仕草は可愛らしいと思う。


「触ってもいいかな」


 言語を理解しているのか、返事より先に頭を下げてくれた。

 あまりにもスムーズすぎて焦ってしまう。

 とりあえず右の人差し指の背中で頭を撫でてみると、フワッとしていてサラッともしている感触だ。

 このまま憩いのひとときを過ごして心の休息を――というわけにはいかなく。


 次は右手で指パッチンをする。


『ピーッ』

「だよね」


 甲高い鳴き声とともに現れたのは、漆黒の鷲。

 左の烏と同様、腕に止まって首をクイックイッと動かしている。


 なんとも可愛らしい2匹が揃ったわけだが、種類と存在を把握しているのはゲームの知識を存分に活かしているからだ。

 右手専用の剣と左手専用の剣も出すことができるなんて……既にエンドコンテンツルートに入っていること……?

 それとも、最初から自身のポテンシャルに気付いていなかったキャラクターということになるのか?


 わからない、わからないぞ……。


「もしかしてだけど、姿を変えられる?」


 その言葉を口に出したのは、素朴な疑問だった。

 他人に見られたら常識を疑われること間違いなしの発言だけど――。


「――な、なるほど」


 2匹は、それぞれの色の光に包まれ俺の体に吸い付く。

 自分の服に目線を下ろすと、漆黒のタキシードスーツだけではなくワイシャツとベストに加え靴も変わっている。

 そして純白な手袋と背中に感じるフード付きのマント。


「じゃあ、アレもできるよね」


 と言っただけなのに、目線を下げてみると白黒が反転している。


「ははっ、凄いや」


 ちなみにオシャレな着こなしをするためのシステムではない。

 黒が物理耐性をありえないほど向上させ、白は魔法耐性をありえないほど向上させてくれる。

 同色の剣2本と組み合わせると、ほぼ無敵みたいな状況になるということだ。


「ははっ。ありがとう、もういいよ」


 2色の装備は、それぞれの光となって羽を動かしながら宙に留まり続ける。


「もうそろそろ戻るから、またね」


 俺の言葉を、本当に全て理解できているのだろう。

 駄々をこねるわけでもなく、鳴き声を出すこともなく反転して飛んでいく。


 さすがの知りすぎている状況を経験してしまい、乾いた笑いが出てしまった。

 だってそうだろう?

 最も回避したいルートを、現在進行形で経験している可能性が出てきてしまったんだ。

 このまま夢が終わらないとして、その先に待っているのは自分の死。


 抵抗して主人公を殺したらルートをやり直すことができるのか? それとも、セーブ&ロードでその日を繰り返す? それともバッドエンドで夢が終わってくれる?

 全てが俺にとってのバッドエンドでしかない。


「……教室に戻ろう」


 足を進めながら、それでも回避策がないのかを探る。


 ああそうだ。唯一、思考の余地が残されていることたった。

 それは、それぞれのルートで【カイト】が知り合うはずのメインヒロインたちと未だ接触していないこと。

 まあ【アリサ】に限っては、タイミングが違うから確定ではないけど表ルートのメインヒロインである【ミーシャ】と知り合っていない。


 だから、まだ裏ルートに突入する可能性が残されているわけだ。

 そして別の希望が残されているとすれば、完全なる新規ルート。

 俺すらも知らないルートが追加されているなら、攻略できるものなのか不明だが、バッドエンドの可能性もありハッピーエンドの可能性もある。


「……」


 もしかして、俺がキャラの役割を超えて物語に干渉してしまったからか……?

 そうだ、その可能性だったあった。

 各ヒロインが心に傷を負うイベントは回避できたわけだし、物語に逆らわず身を任せてみるのもありだな。


 よし、それでいこう!

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