第9話『ヒロインとの関係性を探ってみる』

 さて、物語をハッピーエンドへ導くためにできることをしよう。


 まず探ることができそうなのは、やはりヒロインとの関係性。

 表と裏、実はどちらかのルートでヒロインたちは顔を合わせていない。


「あ」


 と、1組と3組どちらへ行こうか廊下で悩んでいたら鉢合わせてしまった。

 配慮しなくちゃいけない、2人同時に。


「ミナトくん」

「ミナト」


 由々しき事態だ。

 本当に本当に本当に。


「ミーシャ、アリサ。偶然だね」


 右に金髪美少女、左に銀髪美少女。

 邂逅してはいけない華が出会ってしまった。


 しかも、あろうことか少しムスッとした顔で互いに目線を交わしている。


「私はミーシャ・アローナです」

「わたしはアリサ・カージャスです」

「とても綺麗な髪ですね、素敵です」

「いえいえ、そちらこそ見惚れてしまうほど綺麗ですよ」


 ニコニコしながら言葉を交わしているけど、わかる、わかるぞ。

 嘘偽りのない事実を伝えているのはわかるけど、これは社交辞令というやつだ。

 そして今、繰り広げられているのは純粋な好意を


 だ、だって――笑顔な2人の間に、電気がぶつかり合って火花がバチバチと飛び散っているから!


「あ、ああ。何か用事でもあったかな」


 俺は「それで、こちらの方は」という、眼力強めの目線を二方向から注がれて切り返しを図る。


「困っていることはないかと」

「それに関しては大丈夫。ありがとうミーシャ」

「何かあれば、いつでも言ってね」


 ミーシャは、恩を返す旨を最初から言っていたな。

 何か忘れたわけじゃないけど、嘘でも教科書を借りたら気が済むかもしれない。

 今後の対策として、2人ができるだけ顔を合わせないようにするため、ここで手を打っておく方が賢明かもな。


「わたしは、お話しできたらと思って」

「話?」

「うん。だってほら、今日知り合ったばかりだし」


 あーんー、ん?

 モジモジしながら、そう言われたけど。

 顔見知り程度で収まってほしい、とは思っていたけど……ああ、なるほど。

 アリサ的にも、助けられた恩を感じているから『探りを入れるために会話をしたい』ということか。


 どちらにしても、2人との関係を続けていいとは思っていない。

 なんせ、全攻略をした中に彼女たちが面識を築くことはなく、どちらかと接点を持ち続けるルートは知らないから。

 最悪を想定すると、エンドコンテンツで追加で新規実装されたルートがあるのかも。

 そのルートだと……やはり、俺が死ぬ未来は変わらない気がするから回避しなければならない。


「私も」

「そうなの?」

「うん」


 2人が同じ目的だったとして、交友関係を広げる意味では乗って損はない。

 しかし、それはゲームではない日常の学園生活においての話。


 未来に待ち受ける、俺の“死”を回避するためには真逆の『距離を置く』ことが必要だ。

 さて、このままでは会話が続いてしまう、どうするか。


「そうだ」


 会ったばかりの人に対して、かなり変だし不謹慎な質問を投げかけたら距離を置かれるのでは?


「2人は、好きな人は居ないの?」


 そう、まさかの恋愛話! 恋バナ!

 距離感がバグった変な人、というレッテルを張ってもらえたら恩返しが済めば距離を置いてくれるはず!

 我ながら、策士だな、うん。


「そ、それは……」

「わたしは、婚約者が。一応」

「なるほどなぁ。アリサは婚約者が居るのか」


 ふっふっふっ。

 表ルートと裏ルートの物語を攻略した俺だからこそ引き出せる話題!

 普通に考えたら、あまりにも強引すぎて誰もしない話の流れでも――自分の命が懸かっているんだ、躊躇わないぞ!


 アリサに婚約者が居ることは把握済み。

 しかも好きじゃない相手であり、正確に難があり、問題児。

 顔がよくて金を持っていて地位もあって本性を知らない人からは尊敬されていて……くっ、なんでも持っていて羨ましい。


 ミーシャに関しても、表ルート最大のネタバレを知っている!

 それは! 小さい頃に恋をした男の子が居て! それが物語の主人公である【カイト・メンサレール】その人なのだ!

 初心な恋心を抱きつつ、命を救ってもらい、トラウマを共有して克服していき、運命的な恋に発展していき……あれ?


「でも、その婚約者の人は正直に言って好きじゃない」


 はいはいはい、そうですよね。


 で、でも待ってくれ。

 思い出したけど……アリサが絡まれていた連中、実は、その婚約者が差し向けていたんだったな。

 しかも、ミーシャに関してもトラウマになるイベントを破壊してしまった。


 どうなるの、これ。


「私は……小さい頃に好きだった男の子が居て。でも、名前も知らないし、顔だって変わってるからわからないと思う」

「甘酸っぱい初恋だ」

「ううん、全然そんな感じじゃないよ。そうじゃなくはないと思うけど、今思うとあれは憧れだったのかなって」

「いいや? 好きだったんだと思うよ」

「違うよ」


 あれれ、マズいですよこれ。


 ミーシャの気持ちを、どうにか幼き頃の初恋な記憶へ引き戻そうとしているのに、どうやっても軌道修正できない。

 あのイベントは、やはり必要だったということか……?

 いやでも、あのまま見過ごしていたらミーシャは確実に最悪な体験をしてトラウマを植え付けられてしまう。

 いくらカイトが後から駆け付けるとはいえ……あんな可哀そうな姿を見るのはゲームで遊んでいるときだけで十分だ。


 アリサの件も、必要なイベントだったとしても同じく見過ごせなかった。


「そ、そういや。なんで婚約者のことが気に入らないんだ?」

「態度、素行、目線、存在、全部」

「随分と巻き返しができなさそうな感じだな」

「会ってほしくないけど、会ったらわかる。不快」


 嫌悪感が表情に出て、しかも両腕で自分を抱き締めている。

 初見であれば「まさか、それは言い過ぎだ」、と婚約者に対しての同情を抱く場面ではなるが。

 一言一句、画面の外でも同じことを思ったから間違いない。


 初対面の人間を見下すし、庶民であるだけで存在自体を否定される。

 目的を遂行するためには手段を択ばず、誰かが傷付いても気にすらしないほど。


「まあまあ、とりあえず。短かったけど、これで話をすることはできたよね?」

「うん、また」

「もっと時間があったらよかったのに」


 そう言い残し、2人はそれぞれの教室へと引き換えしていった。


 今回の作戦、なかなかによかったのでは?

 唐突かつ強引にセンシティブな内容へ切り込んだおかげで、俺に対する壁を設けることができたはずだ。

 ミーシャには否定を、アリサには不快感を思い出させた。

 人としてどうなのか、という問いに関しては申し訳ないことをしたと思う。


 だが俺の命が関わっている話だ、許してほしい。

 さてさて、この調子でルート攻略を進めつつ、変な分岐やフラグを壊していこう。

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エンドコンテンツ裏ボスである主人公の親友に転生した俺、最強だがいずれ敗北が確定しているため、ハッピーエンドを目指して学園生活を謳歌する 椿紅 颯 @Tsubai_Hayato

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