第7話『ファンタジー的要素を試してみる』

 あまりにも長い夢だが、逆手にとって堪能しようじゃないか。


 待ちに待った実技の授業を、外の第1訓練場で行うことに。

 観客席らしき階段みたいな場所があるから、訓練場というよりは闘技場と言った方が正しいと思う。


 さて、と。


「よろしくミナト」


 当初の予定通り、相方になるのはカイト。


 魔法を教えるという話の流れだったけど、ゲームを遊んでいるときとは勝手が違うから困ったものだ。

 さっき魔法を試すことができたから、あの人たちがやっていたことを砕いていけば説明できる……はず。


「先生曰く、合図があるまで自由に魔法を発動させていいみたい」

「じゃあ先に受けるよ」

「ミナトの胸を借りる気持ちで挑むよ」


 さあ、防御ってどうやるのか。


 イメージで魔法を発動させることができるのなら、カイトが魔法を詠唱して魔法陣を形成している間に、こちらも前面に長方形のシールドを展開させておこう。


「――ファイアーボール!」


 炎の玉か球で間違いないのだろう、握り拳ぐらいの円形な炎が蝶がひらひらと飛ぶようなスピードで飛んできた。

 あまりにも威力がなさそうな炎は、透明なシールドに接触して燃え盛ることもなく消え去ってしまう。


 なるほど、これは他人目線だと可哀そうなほど実力がない。

 物語の主人公だから、ここから強くなっていくわけだけど……体験しているキャラが親友側でよかった。


「凄いね、僕が集中している間に防御を展開しているとは」

「あ、ああ。俺は防御魔法が一番得意だからね」

「そういえばそうだった。ははっ、さすが」


 大丈夫、当てずっぽうなことを言ったわけじゃない。

 この親友キャラは本当に防御魔法が得意で、だからこそエンドコンテンツのラスボスとして強さを誇っていた。

 主人公は苦手な魔法を補うようかたちで、聖剣を手に入れたりヒロインたちの力を借りて強くなっていく。

 表面ルートだと、この親友キャラが防御や補助を担って主人公を終始支えていた。


「魔法は威力と速度のどちらを優先させるかがじゃないかな」

「威力!」

「素晴らしい即答」

「発動さえできたら勝てるから!」


 拳を突き上げながら発現するその姿は、まさに脳が筋肉でできている証だ。

 とはいえカイトは、その道を究めて発動が遅い特大魔法を習得する。

 威力も範囲も常軌を逸していて、最終盤では聖剣に魔法をまとわせて放ったり。


 雲や木々が吹き飛ばせる一撃は、まあ主人公補正というかゲームだからこその成長チートというやつだ。


「俺が攻撃を防ぎ続けるから、練習し放題ということで」

「なるほど! それは確かにいい練習になるね」


 その間、俺は防御魔法を発動させながら今後の展開を考えてみる。


 まず、こんな目を光らせて観察したいファンタジー要素を経験できる機会は楽しい。

 作中最強キャラの体だからこそ、全てを1から始めるストレスがなく。

 表ルートメインヒロインである【ミーシャ】を助けたときも、身体能力が常人のソレから逸脱しているから煩わしさがなかった。


 魔法に関しても、さすがは最強キャラといったところだろう。

 消耗が少ない防御魔法とはいえ、常時発動させていても疲れている感覚はなく永遠に続けられそうだ。

 裏ルートのメインヒロインである【アリサ】を助けたときのように、別次元の強さを有していることは把握できた。


「――これで3発目。まだまだいこう」

「やってやるぞぉ!」


 目にやる気が宿って燃えているように見えるけど、実際には燃えていない。

 でも懸命に挑み続ける姿は、やはり主人公ということなのだろう。


 このまま立ち続けていてもいいけど、周りの人物配置を見渡し、後ろに誰もいないことを確認。

 左手を後ろに回し、親指を上に向ける。


「……」


 さすがに物語序盤だから無理かと思ったけど、まさかの【聖裁の破壊ジャッジメント・デストロイ】を手に握ることができてしまった。

 焦って消滅させたけど、これはエンドコンテンツのラスボス専用左手武器。

 純白で綺麗な剣だが、能力が半端じゃない。

 得意の防御魔法でダメージを吸収した威力と魔法をチャージし続け、任意のタイミングで倍増して放つことができる代物。

 しかも体力回復にも応用することができて、ギミックを潰さない限り永遠に回復し続けるから非常に苦しめられた。


「どうしたの? そろそろ交代する?」

「いや、まだまだ続けていいよ」

「そう? 少し表情が強張っていたから気になって」

「ほらさ俺も伝えるのが得意というわけじゃないから、どうやったら上手に伝えられるかなって考えていたんだ」

「なるほど、そこまで考えてくれていたのか。本当にありがとう」


 危ない、バレずに済んだ。

 そうだよな。ゲームを遊んでいるときは気にしなかったけど、これが現実的な話だと表情を見られてしまうから気をつけないと。


 じゃあ手を変えて右手を後ろに回して――やっぱり。

 握れてしまった剣は【闇裁の破壊ダークネス・デストロイ】。

 こちらは反対に右手専用武器であり、こちらもぶっ壊れ性能だ。

 防御も含む全ての魔法を無効化し、相手にデバフを撒き散らすだけじゃなく、1度使用したスキルや魔法を封印するという凶悪っぷり。


 そう、俺のキャラが敵対するまでに味方として使用した、全てのスキルと魔法を完全に封印できてしまう。

 つまりギミックを理解するまでは、何度ラスボス戦に到達したとしても完全なる詰みポイントとなってしまうのだ。

 さすがに初見じゃ無理ゲー&鬼畜すぎる仕様に、少なくとも俺は途方に暮れる回数を死んだりやり直したりした。


「カイト、炎以外は練習しないの?」

「ふっ――できたら苦労しないさ」

「ですよねー」

「まだ授業の時間は残っている! 教えて!」

「じゃあ水でいこう」


 詠唱は必要ないけど。


「『潤い満たすために欠かせず、全ての源であり生命力の元、活力を生み希望を生み』」


 ここまでの詠唱で、氷水系統の魔法陣が形成される。

 目視では確認できないけど、水色に発光する雪の結晶で作られている感じ。

 使用者の実力によって左右されるから、今回は意図的に制限して1枚にしておく。


 魔法陣までは手とかはどうでもいいけど、魔法を発動させるときは手のひらを発動する方向にかざしたりする。

 今回は斜め下に突き出し、地面へ放とう。


「『美しき玉と成り、敵を砕く』――アイスボール」


 詠唱途中からイメージすることにより、魔法名を言い終わってすぐに地面へ飛ばす。

 そこまで距離がないから、すぐに砕けてしまった。


「す、凄い」

「魔法陣以降の詠唱中、どれだけ鮮明に発動する魔法を想像できるかが鍵だね」

「おぉ」

「その作業が未熟だと、詠唱文と魔法名を言い終わってから形成されていくから、結果的に発動までの時間が長くなってしまう」

「わかった! やってみる!」


 まあ、ここまでの内容は授業で習っているから知識自慢をしているわけじゃない。

 でも知っているからできる、という簡単な話でもないから、基本的な内容でも大体の人は意識の外へ投げ出してしまう。


 と、どっぷり世界を堪能しているわけだけど。

 夢にしては、あまりにも長すぎじゃない?

 楽しいからいいけどさ。

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