第二章
第6話『男の友情は輝かしく馬鹿げている』
「今のところ、放課後は大丈夫そうだ」
「それ本当か?」
「うん」
あまりにもフラグでしかない言葉を受け、じゃあと放課後について考える。
今は授業後、教室移動のために廊下を歩く5分間の最中。
プレイヤーとして遊んでいたら、ここまでリアルなゲームの裏側を楽しむことはできなかった。
さすがは物語の主人公、あれだのこれだの、と話している横顔も爽やか系イケメンで眩しすぎる。
さて放課後は、姉さんからの襲撃を回避する方法を考えた方がいいのかな。
個人的に『美人すぎる姉と過ごす放課後』というのは嬉しすぎて堪能したい。
現実世界で考えたら、喉から手が出るほど嬉しい日常だから。
「忘れてた」
「ん?」
「そういえば昨日、詰め寄られたときに言伝を頼まれていたんだ」
「姉さんに?」
「うん。『今日の放課後はクラスの用事があるから、一緒に下校できない』、だそうだ」
「なるほど?」
やっぱり毎日のように下校していた。
要するに、主人公が放課後に起きるイベントをスムーズに進めるための処置なんだろうけど……なんて羨ましい展開なんだ。
でもたしかに同じ寮で生活しているのだから、適当な用事を親友キャラに与えなければ親友と帰るに決まっている。
それじゃあ別ジャンルのゲームになってしまうからね、納得。
「そういや、入学前の約束って憶えてる?」
「ごめん、なんだったっけ」
「あれだよあれ。ほら」
そんなリアリティある日常的な会話を持ち出されても、こっちはストーリー上のことしか知らない。
何かのヒントを出すように目線をクイックイッを下へ動かし、誘導されるがままに目線を下げると手元で何かしている。
それを見て察しろ、ということなんだろうけど……なんだそれ、両掌を左右に動かして? 何かを摘まみながら動かして?
あ、もしかしてページをめくっている動作なのか。
じゃあ本か雑誌ということはわかったけど、なぜ言葉に出して伝えてこない?
周りのクラスメイトに聞かれたらマズいような内容?
あ。
「今度の休みにでも」
「わかった」
完全に不意打ちで、笑う場面なのに驚きが勝ってしまった。
この内容、確かにストーリーで出てくるけど、もう少し後の方だったと思う。
最初の笑いポイントでもある、男同士のどうしようもなく呆れる友情の話。
約束をした親友キャラも同類だから、今の俺が笑うことはできないが……要するにエロ本を獲得する、という内容だ。
この男2人のために補足すると、正しくはファッション雑誌である。
互いにファッションが気になる年頃であると同時に、性に関係するものへ関心が向いてしまうのも世の摂理というものだろう。
現実世界の俺だって、堂々とは厳しいけどヒッソリと調べることだったあるわけだし、こればかりは仕方ない。
まあでも、そのヒソヒソと隠れながら意思疎通をしている姿を、プレイヤーは他人事じゃないのに覗き見ることができるから笑ってしまうわけだが。
「でも、そこまで気になるなら告白を受けたらいいんじゃ?」
「い、いやそれは、また話が違う」
「毎日告白されるぐらいモテモテなら、物は試しと付き合ってみるのもいいと思うけど」
「それは違うと思う。だってほら、まずは友達になって仲良くなってからの方が――」
で、出た、純粋無垢で初心な男子高校生設定。
言っていることは間違っていないと思うけど、さすがに自分が通常の男よりモテている自覚はあるだろう。
だが、この男――主人公カイトは、ミナトの姉であるカリナ以外の女性とほとんどまともに話したことがない。
同級生とも話すし、同じ班になって行動する授業とかで言葉を交えることがあっても、日常会話をしたり趣味の話をした経験がない、という設定だ。
ピュアピュアなホワイトな心で、間接キスは敏感に避け、手が触れ合いそうになったら超が付く反応速度で回避する。
風に煽られてフワッとめくれてしまった女子のスカートが視界に入ったら、どんな状況だろうと目を閉じて体を反転させる機敏さも発揮させる。
紳士的と言えば評価が高くなっても、じゃあこのまま大人になるのかと思えば心配が先に来てしまう。
「この際、姉さんと女子に対するコミュニケーションを学んだら?」
「僕が唯一まともに会話ができる相手だけど、カリナさんはミナトにお熱だろう?」
「ほら、そこは逆に考えて。俺の自由がない姿を何度も見ているでしょ?」
「僕も体感しているから理解できる」
「だったら俺を助けると思って、たった数分、いや数秒でも長く話をしてみたらいいんじゃないか? てかしてもらえると助かる」
「カリナさんが機嫌を悪くしそうな気もするけど」
俺からすれば嬉しい展開でしかないけど、ほら、ね?
年頃の姉弟が、べったりと仲がよかったら周りから変に思われるかもしれないでしょ?
だから……俺のため……を……。
ま、待てよ。
冷静に考えるんだ。
こんな猥談に近い話の最中、変な落ち着きを取り戻した自覚はある。
だが冷静にならざる負えない。
なぜなら、主人公であるカイトとキーキャラであるカリナが距離を縮めるということは、表面ルートと裏面ルートも飛び越えてエンドコンテンツルートだからだ。
つまり、その先に待ち受けている未来は――俺の死。
「――そうだな、無理は良くない。だから、俺が頑張って2種類1冊ずつを手に入れることにしよう」
「な、なんだってっ!?」
「おい声が大きい」
なんて性欲に純粋なんだ、とツッコミを入れたいが周りから注がれる目線に耐えるので必死だ。
だがしかしスムーズに注意を引くことができた。
こんなエロ本を買うかどうかでルートが分岐するなんて、かなり馬鹿げているとは思うが、自分の命が助かるなら喜んで恥を受け入れよう。
違う違う、エロ本じゃなくてファッション雑誌な。
「さすがは長年付き合っている親友、頼りにしてるよ」
「素直に喜んでいい言葉なのかよ、それ」
「当たり前じゃないか。今から報酬を考えておかなくちゃ。何がいい?」
「その無邪気さと純粋さが欲しいよ」
「ははっ、面白い冗談を言うね」
俺はその無自覚に対し瞬間で沸騰寸前の苛立ちを抑え、引きつった笑いしか返すことができなかった。
この主人公、後々から『勇者の生まれ変わり』だとか『聖剣を手に入れる』って属性がどんどん付与されていくんだぜ?
だから表面ルートも裏面ルートも攻略することができるわけだが……逆に言えば、親友だからこそエンドコンテンツルートは力を発揮できないわけだけど。
それもそうだよな、長年付き合って、こうして他愛のない会話を日常的に行い、両面ルートを共に協力して乗り越えてクリアするんだもんな。
ゲームのシステムであり仮想のキャラだけど、物凄く人間らしいよ、本当に。
「代金分のご飯を驕るだけじゃ足りないよね」
「それだけで十分でしょ」
「いやいや、恩には更なる恩で報いなくちゃ」
「考えておくよ」
本当、小学生の男子かよ。
そんな男と話をしている俺も、この状況を楽しんでいるから同類なんだろうけど。
あれ?
でもさ俺、表面ルートのメインヒロインと裏面ルートのメインヒロインを両方助けちゃったけど――どうなるんだ?
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