第5話『裏ルートのヒロインは俺が助ける』
授業が終了してすぐ、教室を飛び出す。
ストーリーの序盤だとカイトから話しかけられる頻度が多いから、たぶんさっきも俺のところへ来る可能性が高かった。
でも今回は、別に優先することがある。
先生に見つかったら制止されそうだけど仕方ない。
廊下を走り、階段を飛び降り、再び走る。
こんな回りくどいことをしなくても、窓から飛び降りたりしたらいいだろうが、それはさすがに後々が怖いからやめておこう。
「――」
こっちは一時間目が教室だけど、あっちは移動教室だから距離がある。
しかも教室から正反対に位置するような場所だから、物語の主人公であるカイトが事件を把握できないのも無理はない。
だが俺は。
外へ繋がる勝手口を開け放ち、外へ飛び出す。
「なんで……わたし、何もしてないじゃないですか」
「別に俺たちには関係ない」
ここまで来ておいて、事実確認をするために――と言い訳しつつ、もしかしたら何かも間違いかもしれないと角から様子を見る。
女の子1人が男4人に囲まれている構図で、木を背にジリジリと詰め寄られていた。
裏面メインヒロインの【アリサ・カージャス】ということは間違いないだろう。
なんせ、ミーシャとは正反対である白銀の長髪は陽の光を浴びてギラギラと……キラキラ? と輝いているのが特徴だ。
顔? そんなのミーシャと同じく美人すぎて、そこも眩い光を放っているかのように感じてしまう要因――じゃなくて。
「おい、そこで何をしている」
「あぁ?」
俺は角から姿を出す。
「た、助けてください!」
まあそうだよな。
アリサからの支援要請を断るつもりはない。
だが、既に怯えきっている様子で声が震えている。
「ちっ。見られたからには記憶を消してもらわねえとなぁ」
「まさか、そんな魔法が!?」
「……」
そんな魔法やスキル聞いたことがない。
本当にあるとすれば、ぐへへな展開や、ぐふふな行為をしても実質的にバレないじゃないかぁ!
あんなことやこんなこと――変な妄想? そんな馬鹿な、俺が想像をしているのはテストのカンニングとかそういうのですよ?
「馬鹿かお前」
「初対面の人間に対して、それは酷いのでは?」
「魔法で力の差を見せつけ、公言すればもっと酷いことをするって脅すってことだろうが」
「ああ、そうこと。教えてくれてありがとう」
「これ以上は馬鹿に付き合ってられねえ。お前ら」
俺と言葉を交わしていた男を中心に、他の3人が横並び、足を開いて両手を前に出し始めた。
いったい何が行われるのです? とはさすがにならない。
あれこれと口を動かして唱えているのは魔法を発動させるための儀式。いわゆる詠唱というやつ。
詠唱文が終わりへ近づくにつれ、少しずつ円形の魔法陣が詠唱者の背後に構築されていく。
「……」
しかし今の俺は、あまりにもスローモーションに魔法陣が構築されているように見えるから、跳び出して物理的に制圧してもいい。
あの速度なら4人を順番に拳を腹部にぶち込んでも余裕がある。
だがさすがに今朝のスーツ男とは違って、学園内で話が回ってしまうのは何かと不便になりそうだから、力を自由に行使しにくい。
であれば魔法で対抗し、俺が行きつくであろう結末を彼らに味わってもらおう。
「アイスボール」
ちなみに魔法の使用方法がわからない。
ゲーム感覚でやるなら選択肢を決定させるだけ。
右手を前にかざしてみると、ちゃんと手のひらに氷の塊が出現し――飛んでいった。
「あがっ」
「ほがっ」
「でがっ」
「すがっ」
1個だけかと思ったら4方向へ飛んでいき、それぞれの顔面に直撃。
なんとも情けない声を上げ、彼らは1人残らず全身から力が抜けてしまったかのように崩れ落ちていく。
「え?」
残ったアリサは怯えつつ、急に倒れた彼らを一瞥し、理解できない状況に困惑している。
「大丈夫?」
「えっ、そのっ」
「とりあえず、ここから離れて歩きながら話そう」
「はい!」
次の時間、また教室で授業だから少しでも戻っておきたいからね。
「先ほどはありがとうございました。本当に助かりました」
廊下を歩き始め、早々に頭を下げられた。
「本当に偶然通りかかっただけだから、自分の運がよかったと思っておいて」
「わたしの名前はアリサ・カージャスです」
「俺はミナト」
「ミナトさんに助けてもらい、今はとても安心しています」
「何もされてない?」
「はい。あの人たち、わたしを脅せばお金をむしり取れると思っていたようでして」
「なるほど。ちなみに同級生だから、ミナトでいいし敬語もいらない」
「そうなので――そうなの?」
「ああ、入学式のときに偶然見かけて記憶に残っていたんだ。その綺麗な銀の髪と顔は、一度見たら忘れられないからね」
「えっ!?」
1度吐いた嘘なら、2度目も一緒だろう戦法。
初対面の人間に対して、今みたいな流れになったら同級生であれば確実に有効だ、と悟った。
でもアリサが頬を赤く染めているように、俺も気恥ずかしい言葉を伝える抵抗感は薄れることはない。
ゲーム内だからこそできることであることに感謝しよう。
「さっきのミナト、凄かったね」
「そう?」
「だってほら、詠唱文を省略できるなんて相当な鍛錬を積んで実力がないとできないから」
「ああ、そ、そうだな」
薄々は思っていたけど、やっぱりそういう感じ?
でもまあ、俺はプレイヤーなんで。特権ですよ特権。
イメージ力や記憶力を頼りに魔法を発動しただけなんだけど。
でもそうだよな、これも理屈ではそうなっていたとしても、エンドコンテンツのラスボスであり、最初からその事実を把握しているのだから力の制限は必要だよな。
さっきの魔法は初級魔法だったからよかったけど、強力な魔法だったら命を奪っていた可能性もあった。
最悪の場合、アリサも魔法によって傷つけていたかもしれないし。
「わたしは3組なの。何かあったら、いつでも訪ねてきてね」
「そう言って貰えると嬉しいよ。知り合い、そんなに多くないから」
「新入生だもん、みんな同じだよ。わたしも居ないし」
「それもそうか」
「そろそろ急がないとだね」
「先生に見つからないよう、走ろう」
「ふふっ、ドキドキしちゃうね」
ストーリーで見ていた、月のような静けさを思い浮かばせる控えめな笑顔を前に安堵する。
そうそう、これこれ。
表ルートと裏ルート、それぞれのメインヒロインに違いがあり、それも面白い要因の1つであった。
そんなことを思いながら、来たときよりも速度を落とし、アリサに合わせて走り出す――。
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