第4話『ブラコンの姉は天敵で悪戦苦闘な件』

「……姉さん、何か用?」


 と、平静を装って質問をするが。

 彼女いない歴=年齢な16歳の初心な俺には、かなり刺激が強すぎるほどの美人で気を抜いたら声が震えてしまいそうだ。

 当たり前のように周りから注がれている視線は、たぶん本人は気づいていない。

 というか、気づいているのかもしれないけど眼中にないから振り向くなんてことはないだろう。


「ミナト、今日は誰とも話していないわね?」

「さすがに話したよ」

「はい? 誰? なんで? どんな用事で?」

「そりゃあカイトと。さっきまで話をしていたさ。魔法の練習に付き合ってくれって」

「よかった、そうだったのね」


 心底安心するかのように、高校1年生ですか? と質問したくなるように順調に育っているであろう胸に手を置くカリナ。

 俺の青い髪と同じ色のサラサラな長髪だけど、ネタバレ的には偶然の一致なだけ。


 現状の可愛さと美しさを兼ね備えている容姿は、化粧をしたらどうなってしまうのか楽しみである。

 そんな感想を抱くのも、ゲーム中でミナトはカリナに対してドキドキすることがあっても『実の姉だから』と流していた。

 加えて、ゲームをしていたときは「可愛いな」で収まっていたが、こうして目の前にすると心臓の鼓動がバックバクであり、更に綺麗な姿へと変わったら下心を隠せるかどうか自信がない。


「でもそれだけ?」

「ん?」

「他には? 私のかっこいいミナトだもの、女子に目をつけられて告白されちゃったりしなかった?」

「いいえ」

「見る目がない人間ばかりで助かった」


 カリナ姉さん? その、心底安心したように満面の笑みを浮かべるの俺は良くないと思いますよ?

 言葉には出していないけど「能無しばかりで良かった」ならまだよくて、「有象無象の目と脳が腐っている馬鹿共」という鋭すぎる刃が見え隠れしていますよ。


「あ」


 この「あ」という言葉を出してしまったことが失敗だった。


「何?」

「登校中に、ちょっと人助けをした」

「へぇ、そうなんだ」

「良い行動をしたとは思い?」

「姉として胸を張れるほど誇りに思うわ」


 はぁ~あぶねぇー。

 黙っておくと、後からバレたときに詰められるから言っておいた方がよかったのは事実だ。

 でも女性かどうかが絡んでくると、それはもうめんどくさい話の流れになってしまう。


 表情に焦りの色を出さなかったし、嘘は言っていないから大丈夫だったな。


「それで、助けた人は男? 女?」

「……」


 わーお、さすがはブラコンお姉様。あまりにも勘が鋭すぎるし、深く突っ込んできますね。


 ど、どうしたものか。

 正直に話せば許してもらえるのか、それとも内容が内容だから同じ女性として同情してくれる可能性に賭けるのもあり?


「即答しないなんて、あーやーしーいー」


 グイグイと距離を詰められ、指を胸に刺される。

 距離が近くなり、花みたいな甘い匂いと共に美しい顔も近づいてくるから、ドキドキしてしまう。

 認識されないために体を逸らし、難を逃れた。


「実は……」

「実は?」

「不審者に追われている女性を偶然にも発見してしまい……あのまま見過ごしていたら、その女性は今頃――」


 俺はわざとらしく間を開け、手で顔を覆う。


「暴漢に襲われ、過酷で悲惨な未来に辿り着いてしまっていただろう……」

「そ、そんなことがあったのね」

「ああ。助けた女性も、声だけじゃなく手と足も震えていた。恐怖を前に、本当に怯えていた」

「わかったわ。そんな事情があったのなら仕方がない」

「理解してくれて嬉しいよ姉さん」

「ミナトも頑張ったでしょう、怖かったでしょう。そんな中、よく飛び込んでその人を助けたわ」


 やべ、開いている左手を握られてしまった。


「自身の危険を顧みず、本当によく頑張った。怪我はない? どこか痛むところは?」

「大丈夫だよ姉さん。運よく、男が逃げ去ってくれたんだ」


 嘘と本当を混ぜ混ぜシャッフルしているけど、完全な嘘じゃないから別にいいよね。

 手柄を誇張すると、それはそれで大袈裟に騒がれてしまうだろうし。


「そろそろ教室に戻らないと」

「ええ、そうね」

「じゃあ」

「ああなんて運命は残酷なの。授業なんて煩わしいものがなければ、私はミナトと永久の時を一緒に過ごせるのに」


 ん?


「学園というものが消えてなくなれば、それも叶うのかしら」

「物騒なことを言わないでよ」

「それもそうね。でも次はちゃんとした報告をしてちょうだいね」


 おっと。

 物凄くニッコニコな笑顔で、俺を見ている。

 実質的に今日が初対面だけど、なぜか俺にはわかるぞ――その表情の下に煮えたぎるような恐ろしいものが潜んでいることを。


「もう少し演技が上手になるよう練習をした方がいいわよ」

「は、はい」

「じゃあまた」


 なけなしの演技は、全て見透かされていた。

 俺と話すことによって、満足気で足取り軽そうな歩きで返っていく後ろ姿は、怒りのゲージが溜まっているように見えてしまう。


 ゲームの裏側を楽しませてもらっているようで嬉しいけど、トキメキのドキドキと危機感のドキドキが合わさって心が耐えられない。

 逆に俺から恋愛的に攻めたら、どんな反応を示すのか気になってきた。

 まあ、そんなことができる勇気はないですけど。


 自席に戻って座り、考える。


 俺は、この先の展開を把握していて。

 この時間の後、今日中に裏ルートのヒロインが大変なことになる。

 ミーシャの件同様にカイトは遅れてその事実を知り、表ルートでは獲得できなかった魔法やスキルを獲得するわけだ。

 しかし、その物理的に悲惨な目に遇うと知っておきながら助けないのは違うよな。


「……」


 授業は授業で頑張るけど、この後、俺は裏ルートのヒロインを助けに行く。

 ゲーム内キャラ的に、ストーリーを捻じ曲げる行為を続けてしまうことになるが――どうせ夢の中だ、やりたいようにやってやる。

 今だったら、力の使い方と制御は不慣れだけど強いことは知っているのだから、最悪俺が身代わりになったらいいだけだし。


 カイトがストーリーの強制力によって助けられないのなら、俺が助けるだけだ。

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