第3話『憧れのキラキラした学園生活』

 おかしい……あまりにもおかしい……。


 学園に到着して、ミーシャとも別れ。

 自分が配属されている3組に到着した。

 学生という身分で学園生活を送ることについては、これといって変なことはない。

 あまりにも普通。あまりにもいつも通りすぎる。


 もしかしてゲーム内と現実を混ぜてしまい、このような夢より現実寄りになっているのか?


「おはようミナト」


 自席に座って思考を巡らせていると、そこには男の俺でも見惚れてしまいそうなイケメンが立っていた。


「おはようカイト」


 しかし俺と同じ感情を抱く人間は他にも居る。

 カイトの爽やかさをそのまま体現しているかのような、澄んだ蒼い目から目線を逸らすと、周りのクラスメイトも目線を注いでいて。

 1番遠い場所に居る女子に関しては、当人たちは小さい声で言っているつもりなんだろうが「かっこよすぎ」「今日もイケメンっ」という声がここまで届いている。


 加えて、男子も「俺も頑張らないと」「尊敬する」なんて声も届いてい来るものだから、話しかけられている俺が気まずくて仕方がない。

 ゲームをしているときは環境音ぐらいにしか思っていなかった話し声が、ここまで鮮明に聞こえてくると困ったものだ。


「僕さ昨日、魔法の練習をしたけど苦手すぎて剣の練習に逃げちゃったよ」


 で、出たぁ! 自分から弱点を申告する会話イベント。


 状況が状況で思考が追い付いていなかったけど、ここで今朝のミーシャを助けるイベントで魔法を使用しなかった理由が明かされるんだよな。

 やはりファンタジー世界。魔法を行使して不審者を撃退する流れが自然というもの。


 とは言うものの、俺も痴漢未遂の男を物理的に排除した側の人間なんですけどね。


「苦手なものは仕方がない。今は得意なものを伸ばしていけばいいんじゃないかな」

「アドバイスありがとう。そうするよ」


 我ながらに綺麗な定型文を返したものだ。

 ちなみにゲーム内でも同じ内容を一言一句そのまま発言しているから、流れを断ち切ったとかではない。


「今日こそは放課後に魔法を教えてほしい」

「うん、都合が合えば」

「僕も練習したらミナトみたいに魔法を扱えるかな」

「練習すれば、ある程度はできるようになるさ」

「ご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い致します」

「勘弁して」

「ははっ、ごめんごめん」


 さすがはゲーム内、あまりにもキラキラした学園生活を堪能させてくれる。


 このイケメン、周りから好感度が非常に高いことを自覚――していないからたちが悪い。

 眩しすぎて目を細めてしまうほど爽やかな笑顔は、女子にとっては破壊力抜群すぎるだろう。

 ほら、背中側に居るであろう誰かが地面に座り込みながら机か椅子を擦った音が鳴っている。


 この調子で毎日キラキラを振り撒いているから、いつかは誰かを気絶させて保健室送りにし始めるのだろう。


「でもさ、俺の用事を窺っているけどカイトの方が大丈夫なの?」

「うん……まあ、どうだろう。それは放課後になってみないとわからない」

「だろうな」


 さすがに、入学式が終わって毎日のように――いや訂正、毎日女子から告白されているイケメンは不安材料が違いすぎる。

 普通に学生をしていて、『今日も・・・告白されるかもしれない』、と考えながら生活することがあるものかね?

 あるはずがない、あっていいはずがない。

 別にイケメンのアンチってわけじゃないけど、現実世界で居るか? そんな男が求める理想のモテモテ道を一直線に進み続ける人間が。


 世界のどこかには居るかもしれないが、頼むから目を背けたくなるような現実はゲーム内だけにしてほしい。


「魔法は授業でもやるわけだし、頑張るのが得策だろうね」

「そのときは頼むよ」


 人気者の隣に配置される親友キャラって、いろいろと大変だよな。

 比べられるならいい方で、邪魔者扱いされ始めたらいよいよ立場が危うくなってしまう。


 ストーリー的には、『主人公に魔法を教える』という大義名分があるため、序盤は不安に思うことがないけど……中盤以降は、メインヒロインに立ち位置を奪われるからな。

 別に退場するわけじゃないけど、あからさまに登場する機会が減るし置物キャラと化す。

 ゲームを遊んでいるとき、「親友キャラとはいったいなんだったのか」と何度も呟いていたものだ。


「でもさ、ミナトも悠長に構えていられないでしょ」

「ん?」

「だってほら」

「あー」


 カイトが懸念しているのは、ミナトの姉【カリナ】だ。

 天敵とも言える存在であり、弟を溺愛して溺愛して溺愛している存在。

 あまりにも好き好きオーラ全開で、たった1人にモテモテ状態が永遠に続く。

 ストーリー的には、いつも一緒に居る主人公の親友を引き離して別のイベントを進行させるための舞台装置。

 でも、このまま夢から覚めないのであれば……羨まけしからん展開を堪能することができる。


 ちなみに天敵と揶揄しているけど、文字通り本当の天敵だ。

 エンドコンテンツのラスボスである俺を倒せる、唯一の存在であり、命が果てるそのときに初めて実の姉弟じゃないことを知る。

 所謂エンドコンテンツ攻略専用キーキャラクターではあるが、今の俺は最初から知っているわけだけど。


「そういえば昨日、カリナさんから質問攻めにあったんだ」

「どんな?」

「『ミナトに変な虫がついていないか』『ミナトに近づいてきそうな女がいないか』『ミナトの下着の色』とか」

「うん、想像できる。最後の質問を含めて」

「かれこれ数年も続くと、もう慣れてるから問題ないよ」

「苦労かける」


 面目ない、と素直に思う。

 カリナ姉さんが、どれぐらいカイトへ粘着しているかというと。

 毎日のように俺の質問を投げかけているから、『許嫁なのではないか』『既に付き合っている可能性』『両片思いなのでは』、なんて噂が立つほど。


 当人同士は既に答えが出ている問題であっても、周りはどうしてもヒソヒソと妄想を広げていってしまう。

 それほどには、外から観たらお似合いな2人だし、妄想が捗ってしまうぐらいには美男美女すぎて噂が立つのも当然、というもの。


「ミナト、俺は・・自分の席に戻るよ」

「うん」


 なんだ、その謎に強調された1人称は。


 いや待てよ、この流れは知っているだろう。

 ゲーム内でもあった、親友にとある・・・気配を感じると主人公は傍から離れるようになっていた。


 俺は自分の記憶を確かめるべく、恐る恐る出入り口ドア方向へと振り返る。


「……」


 なるほど。


 そこには、姉であるカリナがニッコニコの笑顔で手招きしていた。

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