第6話 狭き闇路の衝突、愛の奔流が招く膠着
ガギィィンッ!!
狭い路地裏に、金属が石畳を砕く鋭い音が響き渡った。
エルザが振り下ろした騎士剣は、マイアがいた場所のすぐ横の地面に深々と突き刺さり、火花を散らしていた。
「ちっ、危ないねぇ! 天使様ごとアタシを真っ二つにする気かい!?」
間一髪でルカを抱えて横に飛んだマイアが、壁に張り付きながら憎まれ口を叩く。 彼女の額には冷や汗が浮かんでいた。インナー姿とはいえ、聖騎士団長の
「黙れ! 貴様がルカを盗もうなどという不敬を働くからだ! さあ、その汚い手を離して、ルカをこちらへ渡せ!」
エルザが剣を引き抜き、再び構える。
逆立った白銀の髪、怒りに燃えるライトブルーの瞳。その姿は美しくも恐ろしい鬼神そのものだった。
しかし、その剣先はわずかに震えていた。マイアがルカを盾のように抱えているため、本気で踏み込めないのだ。
「嫌だね! この子はアタシが見つけた最高のお宝さ。返すもんですか!」
マイアはルカをさらに強く抱きしめ、挑発するように舌を出した。
「それに、アンタの腕の中より、アタシの胸の中の方が、この子も居心地がいいって顔してるじゃないか。なぁ、ルカ?」
挟撃される少年、飽和する愛の器
「あ、うぅ……っ、やめて、ください……二人とも……っ」
二人の猛女の間に挟まれたルカは、物理的にも精神的にも限界を迎えていた。 マイアの腕の中で振り回されるたびに、彼女のしなやかで弾力のある太ももや胸が、ルカの体に何度も押し付けられる。レザースーツ越しに伝わる彼女の体温と、焦りと興奮が混じった匂いが、ルカの思考をかき乱す。
一方で、目の前には怒り狂うエルザがいる。
彼女が激高して息をするたびに、薄いインナーが悲鳴を上げ、その下にある暴力的なまでの胸のボリュームが波打つように揺れるのが、暗がりでもはっきりと見えてしまう。
(……怖い。僕を取り合って、喧嘩してる……。僕が、悪い子だから……?)
前世の記憶が囁く。「お前のせいで、いつもこうなる」。
ルカの瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ごめんなさい……僕のせいで、喧嘩しないで……! 僕、言うこと聞きますから……二人とも、嫌わないでぇ……っ!」
その悲痛な叫び声。
それが、対峙する二人の女性の脳髄を同時に痺れさせた。
「「――っ!!」」
エルザの怒りが、マイアの独占欲が、一瞬にして「ルカを泣かせてしまった」という焦りと、庇護欲へと変換される。
その膨大な感情エネルギーが、狭い路地裏で渦を巻き、全てルカの小さな身体へと流れ込んだ。
『【愛の貯金箱】、外部からの感情流入量が測定不能レベルに到達。』
『警告。魔力変換が追いつきません。――
ルカの心臓が、早鐘のように鳴る。
背中が、焼けるように熱い。
「あ、熱い……っ! 背中が、熱いよぉ……っ!」
「ルカ!? どうしたの、しっかりして!」
「ええい、どけ泥棒猫! ルカが苦しがっているだろう!」
マイアが慌ててルカの体を支えようとし、エルザが剣を捨てて駆け寄ろうとする。 だが、二人の手がルカに触れる直前――。
カァァァァッ!!
ルカの背中から、太陽の欠片が弾けたような、目も眩む黄金の閃光が爆発した。 狭い路地裏が、真昼以上に明るく照らし出される。
「ぐっ……!?」
「きゃぁっ!?」
あまりの光量と、そこから放たれる神聖な魔力の奔流に、エルザとマイアは同時に吹き飛ばされ、それぞれ反対側の壁に叩きつけられた。
光が収まった後。
そこには、少し大きくなった光の羽を力なく広げ、気絶して座り込むルカの姿があった。
「……はぁ、はぁ……。なんて……力だ……」
「……冗談じゃないね。まさか、これほどの『本物』だったなんてさ……」
壁に手をつき、肩で息をする二人の女性。
彼女たちの視線が、中央で眠る天使のような少年で交錯する。
その瞳には、もはや敵意よりも、共通の認識が宿っていた。
――この子は、絶対に、外の世界に渡してはならない。
奇妙な共犯関係が、この狭い闇路で生まれようとしていた。
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