終章 涙

 安息の微睡を拒絶したのは、フォレ―スの中に失われていた好奇心と、芽生えた確信の二つの感情である。


 その二つが、フォレ―スの精神的支柱となり、彼を覚醒させたのだ。


 まず、フォレ―スは好奇心の欲求に従った。バンダナで足の止血をすると、閃光弩ライボウを杖代りにし、体の半分を吹き飛ばした怪狂生物クルバールに近づく。


 怪狂生物クルバールは赤黒い液体を、下半身があった傷口から壊れた蛇口のように垂れ流していた。


 怪狂生物クルバールは呻き声を上げると、に爪を引っ込め、顔の赤い複眼に触れた。すると、黒い光沢の皮膚は、聞いたことのない規則的な音を響かせ、地面に溶けていった。



 そこに横たわっていたのは、両腕に五本の指、肌色の皮膚、首の上には顔がある。


 一つしかない口からは赤い液体をせき込みながら、知らない音を発している。


 眼は二つあり、赤い液体と混じった透明な何かを流している。



 フォレ―スは、脳裏から浮かび上がる、怪狂生物クルバールの正体を拒絶する。


 受け入れて、口にしてしまうと、もう立ち上がることができなくなると、彼は本能で察した。


 怪狂生物クルバールだった奴は必死に、二つの音を繰り返している。


 視線の先には、フォレ―スが最初に、を強襲した場所だ。


 フォレ―スは、口から嗚咽と、血と、全てをぶちまけた。


 好奇心は絶望と変わり、フォレ―スの精神を蝕んだ。




 彼は残された最後の、精神的支柱、確信に縋る。


 あの最後の時、夕陽に反射し、彼の気を引き、フォレ―ス救ってくれた。守ってくれた誰かだ。

 

 崩れ落ちた見張り塔に、生命活動を拒否する体にむち打ち、中を覗き込む。



 そこには、閃光弩ライボウを構えた兵士の亡骸が、覚めることのない眠りの旅に出ていた。


 フォレ―スは崩れ落ちる。確信は虚無に変わり、フォレ―スに生きることを許さなかった。


 


 風土特有の冷気を帯びた風が、フォレ―スの血と泥と傷だらけの肌を通り抜ける。



 カラン



 風が亡骸を傾かせ、星空の光に兵士のドッグタグが流れ星が如く、フォレ―スの視界に飛び込む。


『セカンド・エアロス』



「ああ、ありがとう。そして、久しぶり父さん――――――」


 フォレ―スの視界を涙が塞ぎ、父の骸も、星空も、夜闇も全てを原始の一滴へと変え、フォレ―スは父の下へ駆けだした……


今、彼の旅路を遮るものは何もないのだ。

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クチクの涙 CだCへー @dasyo117

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