第五地区

 前線征服兵に向けて、装備品を生産管理していたヨンクと前線のロック、ナナク、ハック。そして、最前線のクチクに囲まれた第五地区、通称ゴクは、征服兵の駐屯地の役割があった。


 二人がわかっていたことがある。


 それは、ヨンクが瓦礫の生産済み工房と化していた今、ゴクはきっと、屍の廃棄場に変わっているだろうと。


 だが、生温かった。


 そこは廃棄場ではなく、適切な言語化を理解するのを拒む、忌避すべき土地となっていた。


 黄土色の空に赤黒く浮かぶ太陽が、妖しく瓦礫を、照らし、文明人と別の動物、機械が乱雑に混じった肉塊。その虐殺によって、作成された肉塊が瓦礫のそこかしこから顔を出す。


 肉、毛、爪を形成するタンパク質が、過剰な熱で、焦げ果て、機械と熱の化学反応の副産物の臭気と合わさり、殺意と暴力の残り香を広げていた。



 フォレ―スはバンダナで簡易的なマスクを作り、顔を顰めながらゴクに足を踏み入れる。


 両手には弦が張られた閃光弩ライボウを構え、周囲を見渡す。


「ああ、これじゃ、甲殻馬アルバロックも通りたがらねぇ訳だ」


 アイオンは、鼻を何度も擦り、六本足で二の足を踏む甲殻馬アルバロックを宥め、適当な瓦礫に手綱を括りつける。


「アイオンさん、生存者を探しますか?」


「いや、このありさまじゃもう駄目だろうな。それよりも、サンクに戻り戦線を後退させる報告をした方がいいだろう」


 フォレ―スはアイオンを見る。


 アイオンはフォレ―スを見返す。


 先に口を開いたのはアイオンだった。


「行くのか?」


 フォレ―スはアイオンから、視線を濃い黄土色で塗り潰されている空の方、大陸中央部を見上げる。


「はい、父さんはきっとあそこに、クチクにいます」


 アイオンはフォレ―スの右肩を拳で軽く小突くと、甲殻馬アルバロックの方に戻っていった。


 フォレ―スはアイオンに背を向けて、大地を踏みしめていく。


 その眼には少年の輝きが消え、青年の明日を憂う青い炎が静かに揺らめいていた。

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