第四地区
「ありったけだ! ありったけの
それに負けじとアイオンは泥と、血で固まった髭をバリつかせながら指示と共に、咆哮と唾を飛ばす。
「あ、アイオンさぁん! 三台目から火! 吹いてる!」
初めての状況に適応できず、フォレ―スは荷馬車から顔を出し、泣き言の報告を御者席で手綱に血を滲ませるアイオンに吐く。
「いちいち言うな! 切り離せ!」
「で、でも、そしたら、他の兵隊が……」
アイオンは片手で手綱を持つ、彼の握った方の腕からは、傷と出血、返り血、そして古傷で彩られた戦闘の色彩が、消せない罪を陽光の元に晒す。
空いた手でフォレ―スの右頬に鉄拳を食わせ、胸倉を掴む。
そして吠えた。
「そんなのわかってんだよ! 俺もあいつらも! 先に進むためにな!」
赤く腫れあがったフォレ―スの右頬に一滴の液体が伝う。
アイオンはフォレ―スの眼を見て、静かに口を開く。
その言葉は、フォレ―スの周りの殺伐とした喧噪をかき消すには十分だった。
「お前の親父も、そうやって先に進んだんだ」
フォレ―スは唇を噛み、アイオンの手から飛び出す。
『トム、ハンズ、ジョン、ロイス、ヒュージ』
札の裏には、フォレ―スが他の兵士の名前を覚えるために、彼らの名前が書かれていた。
フォレ―スの視界が滲む、名前は識別できず、ただの滲んだなにかに変わってしまった。
積載量が減り、甲殻馬の速度が上がる。
悪路の強行走行と、急激な速度上昇に荷車のサスペンションが耐えきれず、振動をフォレ―スに伝える。
フォレ―スの視界は揺れと瞬きで晴れ、弾かれたように今度は、転がっている
アイオンはフォレ―スを一瞥し、無言で
フォレ―スは
黄土色の空には、黒い鉄塊がいた。それには、明確な敵意と殺意があった。
狙いを定めるフォレ―ス。
引き金を引くと一瞬の爆音と閃光が喧噪の戦場に、新たな戦士の産声を告げる。
この日、第四地区の工房跡地にたどり着いたのは、二台の荷車と二人の戦士だけだった。
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