第7話 家族
意識の底からゆっくりと浮上すると、頬を撫でる柔らかな風の気配がした。
重い瞼を押し上げると、視界に入ってきたのは見慣れた自室の天蓋。そして、私の左右を塞ぐように座り込み、今にも泣き出しそうな顔で私を覗き込む二人がいた。
「……ん……。お兄様、ノアール……?」
「ルーシィ! 気がついたか!」
「姉様……っ、ああ、よかった……!」
私が声を絞り出すと、ルージュリオとノアールが同時に身を乗り出した。
ノアールは私の右手を両手で包み込み、まるで壊れ物を扱うように頬を寄せてくる。
「……私、どれくらい眠って……?」
「三日だ。丸三日、一度も目を覚まさなかったんだぞ」
ルージュリオが私の額に手を当て、熱が下がっているのを確認して深く安堵の息をつく。
だが、その直後、彼は私の目を真っ直ぐに見据えて、あえて厳しい口調で言葉を続けました。
「……お前、 階段から落ちた怪我が、やっと治りかけてきたところだったんだぞ。それなのに、あんな無茶をして! 」
「……ごめんなさい、」
「あ……いや、謝らなければならないのは俺の方だったな。
まずはノアを、家族を救ってくれてありがとう。
……そして、すまなかった。
今まで、お前を何一つ信じようとせず……本当に、俺は兄失格だ」
ルージュリオの声は微かに震えていた。
これほどまでに弱々しく、真摯な彼の姿を、私は見たことがない。
「僕も……僕も同じです、姉様!
あんなに酷い態度を取っていた僕を、あなたは命を懸けて助けてくれた……。
あの時、抱きしめてくれた手の温かさで救われたんです……っ!
本当に今まで、申し訳ありませんでした……
そして、今回はありがとう、ございました…!」
ノアールが私の手の甲に、ぽたぽたと涙を落とす。
「いいのよ、二人とも。
今までの私の行いのせいだもの。
私も、階段から落ちたあの日から心を入れ替えたの……
だから、これからは……本当の家族になりたいわ」
私が不安そうな顔でそう言うと、「あぁ、もみろんだ」と微笑み、返事をしたあと、ルージュリオが少しきまり悪そうに視線を泳がせながら、口を開く。
「……それと、ちゃんとした家族になったんだ。愛称で呼ぶことを許可しよう。……いや、その……そう呼んでほしい」
「ふふっ、はい、喜んで!ルージュ兄様……。」
「姉様! 僕のことも、ノアって呼んでください! ね?」
ノアが期待に満ちた、キラキラとした瞳で私を見つめる。
「ええ、もちろんよ。
……ルージュ兄様、ノア。私を許してくれてありがとう」
ようやく氷が溶けたような温かな家族の時間が訪れた。
しかし、ふと思い出したように、ルージュが真剣な表情で問いかけてきた。
「……ところで、ルーシィ。あの時の、お前から溢れ出した**『金色の風』**のことなんだが……。
お前、自分が何をしたか覚えているか?」
「ええ。……精霊たちが、力を貸してくれたの」
私の言葉に、二人は息を呑んだ。
「……やはり、そうか。あの清らかな魔力、ルーシィ、お前は――歴史に名を残す聖女さえ稀にしか持ち得ない、**『精霊の愛子』**としての覚醒を遂げたんじゃないか?」
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