第6話 誓愛

ルージュリオside


吹き荒れていた暴力的な冷気が、嘘のように凪いだ。


俺は、目の前に広がる光景を信じられず、ただ彫像のように固まっていた。

(……何が、起きたんだ?)


視界の先では、あれほど暴走し荒れていた氷がキラキラと輝く光の粒となって空に溶けていく。

その中心で、白銀の髪をなびかせたルーシャリアが、呆然とするノアを背後から包み込むように抱きしめていた。

あいつからは、まだ柔らかな金色の光が淡く漏れ出している。


それは、万物を癒やすような清らかな風。精霊の愛し子だけが放つ、奇跡の輝きだった。


「……ね、え……さま……?」


ノアの震える声が聞こえた。

あんなにルーシャリアを忌み嫌っていたノアが、今はその温もりに縋るように、力なく彼女の腕の中に収まっている。


ルーシャリアは、蒼白な顔で微かに微笑んだ。

冷気にあてられ、唇は紫色に震えている。

それでもあいつは、自分を拒絶し続けてきた弟の頭を、愛おしそうに撫でて囁いた。


「あなたは……1人じゃ、ない、わ……」


その言葉を最後に、ルーシャリアの体が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「ルーシャリア!!」


俺の体が、思考より先に動いた。

雪崩れ込むように二人のもとへ駆け寄り、地面に倒れる寸前のルーシャリアを抱きとめる。


「おい、しっかりしろ! ルーシャリア!!」


腕の中の妹は、驚くほど冷え切っていた。

暴走する魔力を相殺するために、自分の生命力を削って精霊の力を引き出したのだろう。

あんなに傲慢で、自分のことしか考えていなかったはずのコイツが。

俺たちが「裏がある」と決めつけ、冷たい言葉で突き放してきたコイツが、命を懸けてノアを救ったのだ。


「……っ、クソッ、俺は……!」


俺はルーシャリアを抱きしめる腕に力を込めた。

胸の奥から突き上げてくるのは、妹の変貌を信じようともせず、幾度となく批判を繰り返していた自分への激しい嫌悪感。



そして、今この瞬間にようやく理解した――。


コイツは…ルーシィは、傷だらけになりながら、必死に俺たち家族に手を伸ばそうとし、命を懸けて弟を助ける、心優しく美しい、世界でたった1人の大切な俺の妹だ。



「……ノア、立てるか」


俺の声に、ノアが顔を上げた。

その瞳には、かつての冷徹な感情など微塵も残っていない。

ただ、自分を救った姉への、震えるような後悔と狂おしいほどの情愛が宿っていた。


「……はい。それより早く…姉様を、屋敷の中へ」


俺たちは、気を失ったままの小さな体を引き寄せるようにして立ち上がった。


もう、この腕を離すことはない。

この先、誰かがルーシィを蔑み、泥を塗ろうとしようが、俺とノアが、ルーシィの絶対的な盾になる。




腕の中で静かに眠るルーシィの横顔に、俺は心の中で静かに、けれど熱い誓いを立てた。

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