第12話

3日目の朝。


宮殿。欲樹(ほしき)の書斎。


——陛下!——衛兵がノックせずに飛び込んできた。——事件です!


——また何だ?——欲樹が書類から顔を上げた。寝不足だった——一晩中牢獄の王子のことを考えていた。


——昨日我々の二人が……意識不明で発見されました。殴られて。


——それで?——王がこめかみをこすった。


——一人が目覚めた時、空気の魔術師についてうわ言を言っていました。王子について尋問していたと。


沈黙。欲樹がゆっくりとペンを置いた。


「空気の魔術師……終月の部下か?それとも偶然?いや、都合が良すぎる」


——いつ起きた?


——昨日の朝です、陛下。しかし彼らが今ようやく意識を取り戻しました。


——わかった。行っていい。


衛兵が去った。欲樹が立ち上がり、窓に近づいた。


「速すぎる。近すぎる。もし彼が婆さんを見つけたら……」


——忠弘(ただひろ)!


顧問が横の扉から入ってきた。


——お聞きします。


——あの夜……犯罪者を逮捕した者全員を招け。七人ほどだったと思うが。言え……——微笑み。——警戒心を褒め称えたい。


——全員?それは……異例です。


——危険な犯罪者を捕まえた。当然だ。——欲樹が机に戻った。——隊長を私のところに入れろ。他の者は……厩舎で待たせろ。


——厩舎で?


——そこのほうが静かだ。余計な目が少ない。


忠弘が頭を下げ、出て行った。


欲樹が引き出しを開けた。金の入った袋を取り出した。手で量った。


「貪欲……なんと予測可能な弱点だ」


この時、王女の部屋で。


小百合(さゆり)が窓際に座り、手には市場で買った白いユリがあった。花びらがすでに萎れ始めていた。


ドアをノック。


——入って。


菖蒲(あやめ)が入ってきた。未亡人の黒いドレスが肌の白さを際立たせた。手にはお茶の盆。


——妹よ。——盆をテーブルに置いた。——昨日から部屋を出ていないわね。


——出たくない。——小百合が花から目を離さなかった。


——わかるわ。——菖蒲が向かいに座った。——王子の知らせは……悲しいものね。


——強盗に誘拐されたって信じる?


間。菖蒲がお茶を注いだ。


——あなたは信じないの?


——わからない。——小百合がついに姉を見た。——ただ……奇妙よ。婚約式の直後に。


——世界は奇妙なことで満ちている。——菖蒲がお茶を飲んだ。——そして危険で。特に首を突っ込むべきでないところに突っ込む者には。


——どういう意味?


——何でもない。——冷たい微笑み。——単なる事実の指摘。王子は……好奇心旺盛だった。父が言っていた。


——父は色々言う。


——父は多くを知っている。——菖蒲がカップを置いた。——そして家族のために多くをする。王国のために。


——王国のために?——小百合の声に苦々しさが現れた。——それとも自分のために?


——同じことよ。——姉が立ち上がった。——強い王国——強い王。弱い……


——父の哲学は知ってる。——小百合が窓に背を向けた。


——なら従いなさい。——菖蒲がドアに向かった。——そして余計な質問をしないこと。それは……健康に悪い。


出て行った。小百合が一人残された。


「彼女は何か知っている。でも何?なぜ黙っている?」


立ち上がり、ドアに近づいた。少し開けた——廊下は空。護衛は先、階段のところ。


静かに出た。廊下を歩いた——階段へではなく、反対方向へ。父の書斎へ。


欲樹の書斎。


衛兵隊長が入った。赤い鼻の大柄な男。小さな目が泳いでいる——緊張している。


——陛下!光栄です……


小百合が書斎近くの柱の後ろに隠れた。ドアが少し開いている——声が聞こえる。


——座れ、座れ。——欲樹が椅子を指差した。——毎日そんな危険な犯罪者を捕まえるわけじゃない。


——我々はただ義務を果たしただけ……


——そして見事にやった。——王が袋を差し出した。——お前の褒賞だ。


隊長の目が輝いた。袋を取り、重さを感じた。


——見て……見てもいいですか?


——もちろん。数えろ。


隊長が紐をほどいた。金貨が光った。数え始め、数字を囁いた。


背後から戸棚の後ろから音もなく影が現れた。


——……十八、十九……——隊長がより広く微笑んだ。


針金が首に巻きついた。鋭い引き。


——グッ!


隊長が金を落とした。コインが床に散らばった。手が喉に飛んだが、針金がすでに食い込んでいた。


欲樹が冷静に見ていた。微笑みが消えた。


——貪欲の後ろに自分の死を見逃した。——静かに言った。——お前の前の多くの者のように。


隊長がまだ数秒間もがいた。それから静かになった。


ドアをノック。


——入れ。——欲樹が振り返りもしなかった。


忠弘が入り、死体をまたいで慎重に歩いた。


——他の者は?


——準備できています。——顧問が額を拭いた。——特殊部隊が厩舎を囲みました。彼らには——終月王に対する陰謀団だと、あなたが命じた通りに。


——よろしい。彼らに詳細は不要だ。


忠弘の声。そして父。何について?


——煙の匂いがもう感じられます。彼らはもう外に出ようとしています。


——させろ。窒息し始めたらドアを開けろ。そのほうが楽だ。


小百合が口を手で押さえた。煙?窒息?何が起きている?


足音。忠弘が出て行く。彼女が柱の後ろの壁に押し付けられた。顧問が通り過ぎ、気づかなかった。


隙間から書斎を覗いた。父が床から金貨を集めている。そしてその隣に……


死体。衛兵隊長。死んでいる。


「神よ……何をしているの、父よ?」


-----


厩舎で急に煙。どんどん増える。火事からではない、化学物質の恐ろしい組み合わせが一酸化炭素を模倣している。


特殊部隊の三十人が出口に半円を作って立っていた。剣を抜いている。顔は煙から布で覆われている。


内側から——打撃、叫び声、懇願。木が打撃で軋んだ。


——出してくれ!窒息する!


——火事だ!助けて!


部隊の指揮官が手を上げた。待った。


ドアが屈し始めた。板が割れた。


——今だ。——彼が命じた。


二人の戦士が閂を外した。ドアが開いた。


衛兵が外に転がり出た——咳をし、煙で盲目になっている。膝をつき、空気を掴んだ。


剣が下りた。


速く。プロフェッショナルに。余計な音なく。


一分後にすべてが終わった。死体を厩舎に引きずり戻した、まだ煙でいっぱいだった。


——煙を消して厩舎を換気しろ。——指揮官が命じた。——速く。


すべてを開いた。煙を消した。


——死体を片付けろ。夜に運び出す。——指揮官が布を外した。——公式には——事故だ。消し忘れたランプからの火事。


——承知しました、閣下。


散った。中庭には煙の匂いだけが残った。


-----


下町。夕方。


疾風(はやて)がより低く降りていた。中層から貧民街へ。一歩ごとに家が貧しくなり、通りが汚くなった。二日目の捜索。額に包帯を巻いた婆さん——干し草の山の針のよう。


「ぼろを着た婆さん……おそらく地元民。でもどこを探す?」


商人、乞食、娼婦に尋ねた。誰も何も知らなかった。あるいは話すのを恐れていた。


市場の広場に曲がった。そして凍りついた。


衛兵。多くの衛兵。通常の巡回には多すぎる。


「ここで何をしている?なぜ周りを見回している、まるで探しているかのように……」


衛兵の一人が振り返った。視線が合った。


——おい!お前!


「俺?でもなぜ……関係ない」


振り返った。速足で歩いた。


——止まれ!王の名において!


走った。


——捕まえろ!あいつだ!


「あいつ?俺が誰だ?何が起きている?」


横の路地に飛び込んだ。背後で——ブーツの足音、鎧の音。


野菜の屋台——走りながらひっくり返した。人参とキャベツが追跡者の足元に転がった。


——俺の商品が!——商人が叫んだ。


魚の入った籠——倒した。滑りやすく、臭う。


——囲め!


「多すぎる。もっと静かに行動する必要がある」


古いトリックを思い出した。走りながら集中した。周りの空気が動き始め、渦巻いた。


分岐点で——急に右に曲がった。しかし空気の流れがまっすぐ向けた。埃、小さなゴミを拾い上げ、走っているという幻想を作った。


屋台の小麦粉の袋——空気が拾い上げ、前に投げた。白い雲。


——あそこだ!あそこにいる!——衛兵が空気の跡を追った。


疾風が壁に押し付けられ、息を止めた。十数人の衛兵が駆け抜けた。


待った。静寂。


慎重に覗いた。広場は空。壊れた屋台と罵る商人だけ。


布の長い屋台を見た。その下に潜り込んだ。横になり、息をしないようにした。


「俺を探しているなら……つまり、俺が尋問していたことを知っている。もし知っているなら……婆さんも探している。あるいはもう見つけた」


横になり、聞いていた。足音。声。徐々に遠ざかった。


さらに十五分待った。出てきた。


布商人が興味深げに彼を見ていた。


——衛兵から隠れてるのか、え?


——誤解だ。——疾風が埃を払った。


——もちろん、もちろん。——老人が狡猾に微笑んだ。——すべての誤解が屋台の下に隠れる。


コインを差し出した。


——俺を見なかった。


——誰を見なかった?——商人が巧みに金を隠した。——ここには誰もいなかった。


疾風が頷いた。去った——慎重に、影に沿って。


「戻る必要がある。王に報告する。しかし何を言う?もう少しで捕まるところだったと?王子が婆さんと一緒に見られたと?」


「少ない。少なすぎる……」


-----


夕方。王女の部屋。


小百合が座り、膝を抱えていた。見たことは……


ドアが開いた。欲樹がノックせずに入った。その後ろに——菖蒲。


——父様!——小百合が飛び上がった。


——座れ。——冷たい声。——話がある。


——何を?


——お前が見たことについて。——欲樹が近づいた。——そう、知っている。忠弘がお前に気づいた。


沈黙。小百合が青ざめた。


——厩舎のあの人たち……隊長……——彼女が始めた。——なぜ?


——陰謀者だ。——菖蒲が冷静に答えた。——王国への脅威。


——嘘をつかないで!——小百合が姉に向き直った。——私は馬鹿じゃない!これは王子と関係があるんでしょ?


欲樹と菖蒲が顔を見合わせた。


——王子は……——父が言葉を選んだ。——消えた。おそらく強盗だ。


——婚約式の直後に黙らせなければならなかった強盗?——声に苦々しさ。——彼はどこ、父様?何をしたの?


——何もしていない。——欲樹が椅子に座った。——しかし彼が生きていて見たことを話せば……戦争は避けられない。


——つまり、彼は死んでいる。


——そうは言っていない。


——でも暗示している。


——何千人も死ぬだろう。——父が続けた。——兵士、農民、女性、子供。街が燃える。畑が踏み荒らされる。そして何のため?一人の好奇心旺盛な少年のため?


——間違ってる!


——正しい——間違っている。——菖蒲が近づき、妹の肩に手を置いた。——子供じみたカテゴリー。必要性がある。


——お前の沈黙が何千もの命を救う。——欲樹が立ち上がった。——それともお前のおしゃべりが彼らを殺す。選択はお前次第だ。


小百合が父を、姉を見た。涙が頬を伝った。


——私は……あなたたちが嫌い。


——嫌え。——父が肩をすくめた。——でも黙れ。


出て行った。菖蒲が残った。


——馬鹿なことはするな、妹よ。——静かに言った。——父は正しい。戦争は誰にも必要ない。


——正義は?


——正義は我々が許すことのできない贅沢だ。——菖蒲が彼女の頭を撫でた。——いつか理解する。


去った。小百合が一人残された。


立ち上がり、ドアに近づいた。その向こうに——蓮(れん)。


——殿下!あなた……泣いているのですか?


——大丈夫、蓮。——微笑もうとした。——ただ……


——何かあったのですか?


彼を見た。若く、忠実で、純真。


——ね、蓮……——声が震えた。——時々普通の農民の娘になりたいと思う。このすべてなしに。


——殿下……


——寝室に送って。——背を向けた。——疲れた。


廊下を歩いた。蓮が——後ろに、心配して。


そして下、牢獄では、すでに最後の幕に備えていた。


-----


牢獄。夜。


直途(なおと)が藁の上に横たわっていた。あるいは彼の残骸が。


目が落ちくぼんでいた。唇——ひび割れだらけ。肋骨に黒い血腫。三日間の殴打が仕事をした。


閂の音。


動きもしなかった。力がなかった。


忠弘が入った。彼の普段の冷静な顔。


——立ってください、殿下。


直途が視線を合わせようとして彼を認識した。


——忠弘?王が……知った?


——はい、殿下。——顧問が彼が座るのを助けた。——あの衛兵たちはもう罰せられました。虫の餌です、とでも言いましょうか。


「本当?これは……本当?」


希望。小さいが、温かい。暗闇の中の火花のように。


直途が微笑もうとした。唇が裂け、血が出た。しかし微笑みがあった。


——家に……——囁いた。——父のもとへ……


——はい、はい。父のもとへ。——顧問が立つのを助けた。——こうして。ゆっくり。


脚が支えなかった。一歩ごとに——拷問。しかし直途は歩いた。壁、衛兵、希望にしがみついた。


「もうすぐ終わり。もうすぐ家。父が待っている。すべてうまくいく」


独房から出た。松明が暗闇の後で目を眩ませた。直途が目を細めた。


壁際に木箱を見た。長い——二メートルほど。新しく、新鮮な木の匂いがした。


——これは何?——機械的に尋ねた。


——ああ?これ?——忠弘が肩をすくめた。——おそらく……のために


忠弘が横に退いた。王子の後ろから影から男が現れた——隊長を殺したのと同じ者。背後から鋭い動き。髪を掴み、頭を後ろに引いた。


喉に冷たさ。細い線。


それから——熱さ。濡れた熱さが首を流れる。


「何?なぜ……」


膝をついた。手を喉に——指がすぐに赤くなった。こんなに多くの赤。


——あ……ああ……——話そうとした。言葉の代わりに——血の泡。


横に倒れた。目の前に——箱。今わかった、何のためか。


「だめ……だめだ、俺は……父が待っている……」


這った。すべての動きが力を奪った、なかったはずの力を。でも這った。出口へ。光へ。父へ。


——お……父さん……——しわがれ声。ゴボゴボ。——俺……行く……心配……するな……


血が目を覆った。世界が赤く、暗くなった。


——待って……パパ……俺……


最後の息。静寂。


足音。ゆっくりと、計測されている。


忠弘が死体の上で止まった。思慮深く見た。


——なんという難題を我々に出したんだ、小さな王子よ。——静かに言った。——しかし我々はそれを解いた。いつものように。


殺人者に振り返った。


——片付けろ。そして……箱の蓋を閉めろ——誰も中に誰がいるか見てはならない。明日強盗の犠牲者として届ける。


——承知しました。


忠弘が去った。


牢獄には王子の死体と血の匂いだけが残った。


*章の終わり*

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