神様と11人の私(5)

5「五人目の視野狭窄」


次の日、「座敷わらし」は少し明るくなった。

可愛すぎて嫌いな下の名前を呼ばれても、怒らない。

昼休みに一人でも、怖くない。


私は一人じゃない。

私を大切に思う人がいる。

だからもう、お前らなんて怖くない。

お前らの世界のモブでも、構わない。


まずは、ヒナノのブロックを解除した。

そして面と向かって、しっかりと謝った。

「ごめんなさい。私に悪いところがありました。それでも、仲良くしてくれますか?」

私はヒナノを見たつもりだけど、怖くてまともに見られなかった。

ヒナノは泣いていた気がする。なんで泣いたのかは、よくわからなかった。


まだ籍があるらしいオーケストラ部に乗り込もうとしたけど、「一旦落ち着いてからの方が良い」とヒナノに止められた。

ちょっとテンションが上がりすぎていたらしい。


帰り道。

ヒナノは自主練を休んで私と帰ってくれた。

空気は、変な風に曇っている。


「でもユウちゃん、どうしたの?部活に入るって決めたとき並に元気だからビックリした」

やや無理矢理ぎみに明るく、ヒナノは言う。

「そこまでわかってるなら、ヒナちゃんには理由わかると思う」

「あー。へー」ヒナノがにやつく。

「どんな人?」

「片想いだけど。欲しい言葉をくれて、自分を必要としてくれる人…かなあ」

「いいじゃーん」


「そちらはシン君とどうなの?」興奮気味の私が好きだった人のことを聞くと、ヒナノは気まずい顔をされる。大丈夫だよ、と笑う。

「うーん、まあ困ってるけど。嫌いじゃないからね。いっそ告白されれば楽なんだけど」

「変に気をもたせると良くないって、キリは言ってたよ」

「…うーん。ユウちゃんはそういうとこあるよね」更に困った顔をする。


「そのキリさんは、ユウちゃんのことをよく見てて、欲しい答えを言ったんだと思う。ユウちゃんに気があったら、他の人になびいて欲しくないし」

多分、気があったら云々はないだろう。キリから見たら私は数少ない友達だ。大事に思うことがあっても、そういうところで子どもじみた独占欲は出さない気がする。

前に風邪を引いてスマホを取り上げられ、一週間連絡できなかった時もキリは平常運転だった。それはそれでムカつくけど。


「私に必要な答えと、ユウちゃんに必要な答えは違うかもしれない。ごめんね、変なこと言って」

難しい話だ。でも経験上、こういうときはヒナノが正論で私がずれている。


「ところで」ずい、とヒナノが詰め寄る。

「片想いはわかったけど、これからどうするの?」

「部活?」

「デートとか、告白!」

「あ…」

そうか。好きな人がいたら、会わなくちゃ。気持ちを伝えなくちゃ。


「といっても、顔も名前も知らないし、どこにいるかも…」

「…その人大丈夫?ヤバくない?」

「いや、多分私が怖がってるだけだから…」

「写真とか電話とかから始めたら?」

「いや」


怖い。

そりゃあ、知らない大人の男性? と会うのは普通に危ないし、何より理想が壊れるのが怖い。こないだすれ違った男子みたいだったらどうしよう。汚いオッサンだったらどうしよう。

既婚者だったら…ヤバい、思考がまとまらない。

でももう一段階、何かが。何かが私に蓋をする。


「…」

「これはまためんどくさくなるやつだなあ」

「ごめん」

「慣れてるから良いよ。じゃあ、リミットを決めよう」

「リミット?」

「ずっとこのままじゃいられないでしょ?だから、何かのイベントに行くとか、呼ぶとか」

「…」

「私からは、うちの定期演奏会を提案します。そこに呼んでみて、帰りに話して、ナシならナシ! ユウちゃんの思うとおり…はハードル高いけど、いい人そうならそのままGO!」

ヒナノは本当にいい子だ。というか、なんでこんなに優しく出来るんだろう。すぐひねくれる自分を恥じ入りたくなる。


「うん」いいかも知れない。怖れを、見ないフリをする。

「でも、オケに戻らなくちゃ」

「理由があればユウちゃんは頑張れるでしょ。その代わり、割と本気で頑張りなよ。今のパートの雰囲気私から見てもヤバいから」

それが狙いか。


神様は何も言わない。

知ったような顔で、視野狭窄な私を見ている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る