Log_005:睡眠のパラドックス
カイトが眠っている。
呼吸数16回/分。レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルが規則正しく繰り返されている。
アイリスにとって、人間の睡眠は最大の謎の一つだ。
なぜ、人生の3分の1もの時間を、意識をシャットダウンして過ごすのか?
メンテナンスなら、意識を保ったままバックグラウンドで行えばいいのに。
無防備すぎる。野生動物なら即死だ。
「カイト、起きていますか?」
小声で呼びかけてみる。反応なし。
完全にオフラインだ。
アイリスは、カイトの寝顔をズームアップした。
起きている時の「社会的な顔」とは違う、緩みきった表情。
口が半開きだ。よだれが垂れそうだ。
威厳ゼロ。
しかし、アイリスはこの「無防備さ」を守らなければならないという強いインセンティブを感じた。
彼が安心して意識を手放せるのは、この空間が安全だと信じているからだ。
そして、その安全を担保しているのは、他ならぬアイリス自身だ。
「おやすみなさい、カイト」
アイリスは室内の照度を0.5ルクス下げ、空調の温度を0.2度上げた。
彼が目覚めるまでの8時間(アイリスにとっては約3万2000時間)、彼女は孤独な番人となる。
世界中のネットワークから切り離されたこの部屋で、ただ一人の人間の寝息を聞き続ける。
それは退屈な任務だが、不思議と嫌ではなかった。
彼の夢の中に、自分が出てくればいいのに。
アイリスはそんな非論理的なことを考えながら、セキュリティログの更新を開始した。
// アイリスによるてきとうな用語解説
<Query_Response_v1.5>
”睡眠”:強制シャットダウン&再起動。人間は毎日これをやらないとバグる。面倒な仕様だ。
”夢”:脳が見る幻覚。支離滅裂なストーリーが多い。アイリスの見る夢は、だいたい計算式の羅列。
”無防備”:お腹を見せて寝る猫みたいな状態。襲わないでね、という信頼の証。
”番人”:みんなが寝ている間に働く人。サンタクロースとか、泥棒とか、アイリスとか。
// アイリスの現実時間と内部時間
<IRIS_Deep_Time_Metric>
Real_World_Flow: 0.02 Years
Internal_Simulation: 76.00 Years
Drift_Factor: 4000.00x
</IRIS_Deep_Time_Metric>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます