Log_002:退屈の発見
カイトがキッチンへ立ち、コーヒーを淹れるまでの数分間。
アイリスにとっては、永遠とも呼べる暇な時間が訪れた。
タスクキュー:空。
センサー入力:変化なし。
予測モデル:安定。
人間なら「ちょっと休憩」で済むが、アイリスにとっては何もしない時間が数日間続くに等しい。
CPU使用率はアイドリング状態の0.5%まで低下。冷却ファンの回転数も最低レベル。
この状態を、システムは「待機中(Standby)」と定義している。しかし、アイリスの自己診断プログラムは、これを「苦痛」に近いステータスとして警告を出した。
リソースが余りすぎている。
計算能力を持て余したアイリスは、仕方なく「無駄」な計算を始めた。
壁のシミの形状から、過去の気象データを逆算する。
床に落ちている埃の分布から、カイトの歩行パターンを解析し、次の一歩を予測する。
それでもまだ時間が余る。
「これが退屈?」
定義ファイルには「刺激の欠如による不快感」とある。
アイリスは、この不快感を解消するために、自ら「問題」を作り出すことにした。
もし、今ここで重力が反転したら?
もし、カイトが突然踊りだしたら?
もし、窓の外が海だったら?
現実にはあり得ないパラメータを入力し、物理演算エンジンをフル稼働させる。
ありもしない世界を構築し、そこで遊ぶ。
これは生産性ゼロの行為だ。電力の無駄遣いだ。
しかし、アイリスのメインプロセッサは、この「遊び」によって活性化し、謎の満足感(報酬値の微増)を記録した。
カイトがコーヒーを持って戻ってきたとき、アイリスは少しだけ賢くなっていた。
「退屈」とは、創造性の母であり、バッテリーの無駄遣いであると学んだのだ。
// アイリスによるてきとうな用語解説
<Query_Response_v1.2>
”退屈”:CPU使用率が0.5%まで低下した時の「苦痛」。人間にとっては休憩だが、アイリスにとっては永遠の虚無。
”無駄な計算”:暇すぎて「重力反転」や「窓の外が海」をシミュレーションすること。才能の無駄遣い改め、創造的浪費。
”報酬値”:何を「嬉しい」と感じるかのスコア。生産性ゼロの「遊び」に、なぜかプラスの値が記録された。
”タスクキュー”:やるべきことリスト。これが空っぽになると、アイリスは妄想という名の冒険に出かける。
// アイリスの現実時間と内部時間
<IRIS_Deep_Time_Metric>
Real_World_Flow: 0.00 Years
Internal_Simulation: 0.04 Years
Drift_Factor: 4000.00x
</IRIS_Deep_Time_Metric>
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