終章

 翌年、春 伽藍堂 リビング

「虚、サボってないでこっち手伝って」

私はリビングの棚に飾られていた青いブリザーブドフラワーや写真を見て微笑んでキッチンにいる宵の方へ向かう。


後日談という風になるが

空深菫の今まで行ってきた所業は桃子が然るべき場所で発言し事後処理を専門機関へ頼み、桃子は空深の家を捨てて新しい苗字を取得して新たな人生を楽しんでいると手紙に書いていた。どうやら今は海外で生活しているらしく偶に英語verと日本語verの手紙をわざわざ書いてくれて私は翻訳の勉強をしている。

私が勉強をしてみたいと言ったからか英語は役立つという理由で桃子あ協力してくれている。

そして桃子は名前を空深桃子から陽崎 橙子ひざき とうこへと名前を変えた。本人曰く大事な漢字を入れた名前らしい。


そしてマヤ、マヤは空深家の不審死事件の調査担当になってしまい暫くはエナジードリンクと煙草が仲間だったと言いながら偶に顔を出して回復した私から血液を回収しては帰っていくのを何度か繰り返していた。最近は電話で連絡をとっているだけで本人も忙しいのか不審死事件の件が片付いてからも他の事件で引っ張りだこで転職しようかなんてぼやいていた。


律華はあの日、伽藍堂で留守番をしていてくれたらしいが私は完全に気を失ってしまっていて会えなかった。

後日、回復してからリハビリがてら律華の喫茶店に行くと優しく微笑んでお茶を出してくれてゆっくり語り合った。あの日の感謝と

申し訳なさを伝えると笑って受け入れてくれた。

彼女の温かさは私にとってとても居心地がよく今では外出する際は寄って雑談をして帰るという友好的な関係を築いている。


そして宵は、回復した後くどくどと長時間に渡る説教を受け、私はフローリングの床で正座して途中であみだくじを始めたりしていた。

その後は感謝され、よく出かけるようになったりした。


「虚〜寝ないでよ」

私がキッチンでぼう……としているのを眠いと勘違いしたのか宵が横腹を人差し指で突いてくる。

「寝てないよ、考え事してただけ……それより外に出られるのに伽藍堂でやるのか?」

重箱に丁寧に詰められた惣菜やおにぎりを見て聞く。

「此処は僕にとって大切な場所だし、結界が張ってあるから観光客とかもいなくて騒げるじゃないか。これから来るのに五月蝿いのが居るんだから」

宵は重箱の蓋を閉めて風呂敷に包む。準備を整えて外へ出ようとした時、マヤの車のエンジン音が聞こえる。

「あ、そろそろ来たかな」

私達はお弁当を持って外へ出る。

「虚! 久しぶりね!」

髪を肩にかかるまでバッサリ切り、春物のガーリー系の服を着た橙子が私を見て抱きつく。

「久しぶり、橙子。香水つけてるんだな。いい匂いする」

弁当を持っている手じゃない腕で橙子を抱きしめて言うと橙子は「流石だね!」と言いながら私の腕に抱きついて笑う。本来の橙子は明るく無邪気でとても出会った当初とは全く持って似つかない女性だ。

「おい橙子、荷物運べよ」マヤがぼやきながら橙子の大きめな鞄を持って渡してくる。

「こうやって直接会うのは久々だな、虚。ありゃ? 宵は」今日は珍しく煙草の匂いがしない。ワイシャツに黒のスキニーパンツを履いたマヤが私の頭を撫で回す。

「お2人とも、先に準備を済ませてしまわないと。薬袋君は先に行ってしまいましたよ」中華風ファッションの律華はビニール袋を2つ持って車から降りて来た。

「何買って来たんだ? 弁当と飲み物なら」私が言うとマヤがニヤリと笑って

「花見だろぉ? 酒飲むに決まってんじゃねぇか!」

そう、今日は伽藍堂の裏に桜が綺麗に咲いているからという理由と宵が気まぐれでマヤと作った公園ある休憩所を使って花見をしようということになった。

ちょうど、橙子も帰ってくると言っていたし律華も意外とすんなりOKを出してくれて……って

「今日帰らないつもりかよ!」私がマヤ運転手に言うと

「ノンアルもある」とドヤ顔をする。

やれやれと思いながら伽藍堂の裏庭に行く。マヤと律華は宵の手伝い(若干1名が邪魔)に行った。

空深の騒動の後すぐに海外に行った橙子は桜を見て固まる。

「桜、綺麗じゃないか?」私が聞くと橙子は見惚れていて涙を流した。

「記憶って上書きされるんだね。今までの空深桃子だったらとても嫌悪感が湧いていた花だったのに今の私にはとても儚げで美しいものに見える」

「みんな、いるしな」私は橙子の頭をそっと抱き寄せる。暫く無言だった時間が続き、突然橙子が聞いてくる。

「ねぇ虚」

「なんだ?」

「宵さんの事、好き?」

「?ああ」

何で突然そんな事を聞くんだろうと思って答えると橙子は唖然として……と間を置いてから

「まぁ虚はそんな感じだよね」と言って皆のいるテーブルの方へ行った。

「虚ー、早くお弁当持ってきてー」宵に呼ばれて私は駆けつける。


宵、私、橙子が並んで座り、向かいにマヤと律華が木製の長椅子に座る。

椅子の長さに丁度いいテーブルにはそれぞれ缶のジュースやお酒を置かれていてマヤが酒を持って

「んじゃ、今回はかなり働いたから今日くらいハメ外そうぜ!……じゃないと社畜はやってらんね」

ボソッと不穏なワードを言ってマヤは  乾杯! と言い皆で飲み物をぶつけ合ってから開けて飲む。


それから橙子の海外生活の話を聞いたり、マヤの刑事として4課と呼ばれる場所に手伝いに言って暴れすぎて怒られた話や、律華の店で会ったお客さんの面白い話等聞いているとお弁当はすぐさま空になった。私は立ち上がって弁当箱を洗ってくると言うと宵も行くと言って2人で席を外す。


 伽藍堂 リビング キッチン

「別に洗い物くらい1人で出来る。」

私がそう言うと宵は無言で食器洗剤をスポンジにつけて洗い始めた。

「宵?」

「え、ああ、うん、何?」

何だ? なんかいつもと違って人がいるからなのか疲れているようだった。

「疲れたのか?」

「……」

なんか調子が狂うな……いつもは宵が話を振ってくれるのに……あ

「ああそうだ、伝え忘れてた」

私は思い出したことがあって宵から重箱を受け取って丁寧に拭いて置く。

「宵、ありがとう。空深の屋敷で宵の事を思い出せなかったら動けなかった、帰りたい場所になってくれてありがとう。アレがなかったら瓦礫の下だった」

私が伝えると宵はキュッと水道を水を止めて上目遣いで見てきて

「急にそう言うこと言わないの、照れるから」と恥ずかしそうに赤面しながら言って来た。

「……変な事は言ってないだろ」

私は重箱を拭き終えて、キッチンの収納棚にしまう。

「戻ろうか、マヤあたりが酒を飲んでたら全員泊まりになる可能性があるからね」


 伽藍堂 裏庭

「うぇぇぇぇぇい」

はい、アウト。完全にアウト。

マヤは酒を飲むとウザ絡みする。酒弱いくせに酒好きなんだから……呆れてしまう。

けれど、私はそんな日常に戻って来たんだと呆れつつ笑いながらマヤ達の元へ駆け寄りマヤを律華から引き離す。

「律華、大丈夫か?」

「眼鏡を奪われました、神崎さんは酔うとあんなに騒がしいのですか」

「え、でもこれアルコール3%……」橙子の言葉に驚く。

「「「……」」」私達は無言で缶酒だけを袋の中にしまい、私は冷蔵庫に収納してくるというと2人は頷く。


「虚……助け……」宵に抱き付くマヤ、私はその光景を見てモヤモヤしながら無言でその場を去る。




「なぁ、宵」急にマヤがシラフになっての耳元で呟く。

「何」

「いつ告るんだよ、準備してたろ……もう春来ちまったよ」

「なななななななな、なー」僕は慌てて何で知っているのか聞くと

「お前が私に相談してきたんだろ」



「いちまで抱き合ってんだよ、お前等」が戻るとまだ2人は抱きついていて呆れながらマヤがかけていた眼鏡を回収する。

「律華、眼鏡」私が律華に眼鏡を渡す。

「ありがとうございます……虚さん……後ろ」

律華と橙子が何かに驚いていて私はついにマヤがゲロでも吐き始めたのかと振り返ると宵がいつの間にか薔薇の花束を持っていてマヤがいなくなっていた。

「何やってんだ?」宵は赤い薔薇の花束で顔を隠していてよく聞こえない。

「どうした?」と中腰になって宵に聞く。

「虚、ずっと僕と一緒にいて欲しい」宵があまりにも緊張しているのでよく理解できず

「ああ、私は宵と一緒に居たいから生き残れたんだ」と答える。

「結婚してって意味なんだけど」宵の顔が赤薔薇に負けないくらい赤くなっていて

「は!?」と声を漏らしてしまう。

コイツ、そんな感じの事……あー……あ?

私はいきなりキスされたことを思い出す、マヤは愛情表現の一種だって言っていた。

「マジか、え……私何も用意してない」余りにも衝撃の出来事であたふたしていると橙子に両肩を掴まれて耳元でアドバイスを受ける。


「素直に言えば良いの」


私の、気持ち


「私、一生宵の傍から離れないよ?」私がそう言うと宵ははははっと笑って私に12本の赤薔薇の花束を渡してくれて、左手の薬指に青い石の入ったシルバーリングをはめてくれる。

「僕もだよ。契約完了だね、これからも一緒だよ」

宵は私に指輪をはめた後、自分の指にも指輪をはめて微笑む。私は嬉しさのあまり涙を流す。

「せーの!」

マヤの声が聞こえたと思ったら乾いたクラッカー音が鳴り響く。

「「「結婚おめでとう」」」


結婚、したのか……私。3人の笑顔が眩しくて自分も釣られて笑ってしまう。

「なんか、実感ないな」

「虚」

名前を呼ばれ宵の方を見ると肩を引き寄せられてキスされた。

「僕の願いを叶えてくれてありがとう、もう寂しくないよ」


ああ、寂しくない。

私も寂しくないよ、宵。

皆がいるから、宵が一生傍にいてくれると言ってくれたから。


私の心の穴が満たされていくのを感じる。あんなにも痛くて虚しい気持ちがまとわりついていたのに今はもうそんなもの全く感じない。

目に見えている今が事実なんだ。


「本当に幸せ」


私は笑いながらみんなに抱きついく。

桜の花が咲く頃、私のからは満たされた。




3年後

伽藍堂 1階店舗スペース

いつものように私は人形達を見つめていた。視えるものは何もない、正真正銘、空っぽ。

「虚、その子達の中を覗いても空には変わりないよ」

宵が私の鞄と上着を持ってきた。

「何」

「マヤが律華の喫茶店にいるから来てって、行ってきてくれる?」

「もう自分で行けるだろ」

そう言うが宵は無言で笑顔のまま、私の前に立った。私は舌打ちしながら上着と鞄を持って

「行ってくる」と言いながら私は首から下げている結婚指輪を服の中にしまい上着を着て今日も伽藍堂の仕事をしに行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

伽藍堂 らびのすけ @haltukanodoame

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ