5章 別れ①
伽藍堂side
“虚は何処?”人形達が僕に聞いてくる。
「僕が知りたいくらいだよ」僕は素っ気ない返事をして人形達に背を向けて窓の外を見つめる。
鳥はいつか鳥籠から出るもんだって昔なんかの話題になって先代は言っていたけれど……
「先代ならどうしてたかな」
コンコンコン、3回慎ましいノックが鳴り、僕は指をパチンと鳴らして解錠する。
「久しいですね、人形師殿……薬袋君? 気分が優れないのですか?」
「嗚呼、気分は最悪さ。何をしに来たんだい律華? 今日は休業だよ」
ワイシャツにベージュのスーツパンツを履いた律華は僕を見て溜め息を漏らす。
「先日、虚さんにお会いしました。彼女は己の
助けに行くにも僕は、この森から……まさか……。
虚は桃子さんの依頼の拒否を強く非難していた、虚は想像通り空深菫の作った者だった。そして虚に見えている女性は恐らく
僕は自分の感情が抑え切れず立ち上がって律華に掴み掛かる。
「……」律華は僕を眼鏡越しに無言で見つめている。僕はその行為に何の意味もない事を理解して律華を放す。
僕が外へ出られると言う事は
「……女の子1人止められないなんて……」なんて無力なんだ。
空深屋敷、地下の魔術工房
「……ん」
ゆっくり重たい瞼を開けるとそこは赤煉瓦が積み上げられて作られた少し埃臭い部屋、本棚や戸棚が壁にぴたりとくっつくようにぎっしり並べられて、木製のテーブルには大量の魔術書が積み上げられ中には私の魔具や武器、服まで畳んで置かれていた。今の私は白い着物、いや白無垢と呼ばれる花嫁衣装を着せられて魔術で拘束しているのか椅子から立ち上がる事が出来ない。
「気持ち悪りぃ」
何なんだ、此処は凄く嫌な感じがする。頭が痛いし、心無しか身体まで痛む。
‘’喋るんじゃない“ ”お前はただの器だ“ ”何も求めるな!“
ひたすら怒鳴られて顔を叩かれていた記憶がある。
「……ああ、本当に器の為だけに」私は自分の存在理由にため息を漏らした。
「違う」
聞き覚えのない声が私の言葉を否定する。私は声のする方を向くと櫻花がいた。首を振っている。
「虚、こ、し、て」
こして?
櫻花の声は聞こえるが、少しカタコトというか聞き取りづらい。感情が感じられない。何度も何度も繰り返している単語を読み取ろうと唇を見つめる。
「壊して?」
櫻花が何を壊せと言っているんだろうと思うと、櫻花の立っている場所に薄紅色のレースカーテンがついた眠り姫が眠っていそうなベッドがあった。
「……櫻花が、いるのか」
「目を覚ましたんだね、未桜」コツコツと足音が鳴り、菫は一冊の魔術書を持ってやってきた。
「私は虚だ、お前の道具じゃない。ゲス野郎」私は菫を拒絶し精一杯の軽蔑を込めて睨む。
「ふふ、まぁ良いさ。君は魔術の才能が有ったのか屋敷の外は使い魔が全滅した上に火は消せない。全焼さ、ルーン魔術を使うなんて想定外だった。工房に結界を張って此処だけを死守するしかないようだ……なんて力技を使う子なんだと驚いているよ」
私はペラペラ語る菫を無視して椅子に巡る魔力の循環を魔眼で確認する、確認し見つけて自分が放出出来る限りの魔力を流し込んだ。
すると椅子は派手に爆発して私はその場で倒れ、急いで立ち上がる。
「ゲホッゲホッ! まさか拘束を解く為だけにっ……なんなんだ君は!」
爆発で舞う煙の中、菫を見つけて顔面を全体重をかけて拳を振りかぶって殴り飛ばす。バンッ! という力強く壁にぶつかる音がしたのを確認して鼻で嘲笑って月の形をしたペンダントの魔具を付け直し短刀を握りしめ他の魔具を菫が吹っ飛んだ方へ投げて
「ボンッ」握っていた拳をパッ!と広げて呟くと菫の方で多段に爆発が起こる。
魔具の大半を爆弾に変えた。
どれだけ威力があるか分からないが相手は魔術師だ。この程度で死ぬ筈が……なっ……!?
私は一瞬何が起きたのか分からなかった。咄嗟に短刀で弾いたから負傷はしなかったものの従来の魔術師とは異なる反撃を奴はしてきた。
「剣!?」
「まあ、魔術師と言えば魔術戦が多いだろうけど空深家は元は剣士を育てる家だった。つまり僕は剣士でもあるのさっ!」
鋭い剣撃が私を襲う。私は反撃する余裕しかなくひたすら短刀でその猛攻を弾いていく。
「櫻花、もう一度僕に微笑んでよ」
魔眼が、菫の願いを視てしまい油断して剣が私の肩を貫き壁まで突き飛ばされる。
「僕の気持ちを覗いたね、未桜」
「虚だ!」私は菫を蹴って突き飛ばす。剣が肩から抜ける痛みに私は下唇を噛んで耐える。
「はぁ……はぁ」徐々に回復する肩の傷、マヤから貰った月の形をしたペンダントが治癒魔法とは効いていたがこんなに効果があるとは思わなかった。
「厄介な魔具を持っているね、未桜……その身体を改造して元の姿に戻す予定だったし都合が良いか」
「死者は蘇らない! そんな簡単な事も分からないのか!」
転けた菫に短刀を向けて叫ぶ。
「蘇る! その為に僕は!」菫は立ち上がって剣を振った。単調な攻撃になった、確実に精神が揺らいでいる。
「その為に多くの人を傷つけたのか、そんな事の為に宵のことをっ!!」
私は剣撃を躱し、菫の両目を真一文字に斬って視界を奪う。その隙に櫻花の亡骸が眠っていると思われるベッドに行こうとすると菫に腕を掴まれ人間とは思えない力で押し倒される。
「君を一度壊してから櫻花を壊すことにしよう」
首に手を掛けられそうになった瞬間、私は吐き戻していた宝石1個を菫に吹いてぶつける。触れた瞬間爆発し取っ組み合いになる。
男性にしては力は弱いものの私では力負けしてしまう私はひたすらマヤに教わった技を片っ端から使っていく。
菫に思い切り頭突きをかまして股間を蹴って突き放す。
「お前に私の家族をもう傷つけさせない!」身体の中から、急にすぅっと日本刀が出てくる。
マヤに言われて飲み込んだ魔具の1つが体内から私の魔力を吸って形を現した、のか?
「妖刀・胡蝶蘭!? 止めろ!!」
菫は苦痛に悶えながら叫ぶ。まだ起き上がれない内に、私は紫色の刃を持つ日本刀を掴んでベッドに向かってレースカーテンを斬り捨て中を見ると今にも目覚めそうな眠り姫がいた。
「櫻花」私は魔術で恐らく亡くなった時のまま眠っいる亡骸の櫻花と霊となり現世に縛られ続けている櫻花を見る。
「壊して」霊の櫻花は願った。私は頷いて櫻花の心臓を日本刀で貫く。
すると、私の身体は何かが切れたように軽くなり櫻花の霊が見えなくなった。
解放されたのか、菫が仕掛けた呪いが……。
「櫻花」私が一息ついた途端、乾いた音が鳴り腹に穴が開く。ゲボッと勢いよく口から血が流れ原因を見た。
菫がハンドガンを持っていた。
治癒が上手くいかない。まさか、魔法を阻害する魔弾か。
「そのまま黙って気絶してくれれば」私はそう呟きながら日本刀を構えて、強く踏み込んで菫に最後の攻撃を仕掛ける。
「残念だけど僕の勝ちだ」
ハンドガンを捨てて剣で私の持つ日本刀を振り払い、傷口に剣を刺してきた。
パリンッと月の魔具が壊れてしまい、じんわりと白無垢が赤黒く染まっていく。
「わ、るいが……」私は持っていた日本刀を失ったが折り畳みナイフだけは魔具回収時にずっと帯の中に入れていた。
そのナイフで私は菫の心臓を突き刺す、魔術に完璧なんて存在しない。
「わたし、は……目的を、果たした」
そのまま私は全体重をかけて菫の心臓を念入りに刺してから抜き、床に倒れる。
ドクドクと流れていく血液が床の溝を赤く染めていく。菫はまったく動く気配がなく座り込んだまま一気に老けて見る影すら失った。
ああ、私は初めて人を殺したんだ。
「罰は、受けな……ごぽっ」これはもう助からないな。
菫の死によって、魔術工房の結界が解け酸素と融合しアンサズの火が一気に燃え広がり大爆発を起こす。
私は徐々に燃えていく工房の中に誰かの気配を感じた。だがもう瞼すら開かない。熱い空気は感じるのに身体はどんどん熱を失っていく。
「虚、死なないで……動いて」
(櫻花? もう逝ったと思っていたのに何で)
「動いて、助けが来てる」
(助け? 誰だ)
「お願い、貴女が希望なの」
(無茶言うなよ)
私はそう心の中で言いつつも動いた。立ち上がる力はもうない。それでも私はやり残したことがある。伝えたいことがあった。
宵に、もう一度だけで良いから会わせて欲しい。彼に謝る時間だけ……
這って出口を目指していると突然、目の前が真っ暗になってしまい私は動けなくなってしまった。
伽藍堂side
「どうして虚を1人にしたの!?」
「落ち着けよ、お前そんなに他人に対して感情むき出しにするような奴か?」
マヤは僕の両肩を握って揺さぶりながら言う。
「違う」僕が否定するとマヤは「そうだろ」と言うが意味が違った。
「虚は僕にとって!」
パリイィィンッ!!! 突然、僕の身体が光り出して激しく何かが割れる音が響いた。
僕は首元を隠していた黒いチョーカーを取りマヤと律華を見る。
「呪いが、消えてます」律華は持っていたコンパクトミラーを僕に渡して確認させた。首についていた締め付けられたような呪いの痕跡が綺麗さっぱりなくなっていた。
「空深菫が、死んだ」僕は余りの出来事に放心しているとマヤに腕を引っ張られた。
「宵、車出す。乗れ!! 律華は留守番頼んだ」
僕はマヤに力強く引っ張られてそのまま車の中に突き飛ばされた。
「マヤ、説明」僕はシートベルトをつけ助手席で揺られる車の中で聞く。
「虚に渡した私の力作の治癒魔法が発動する魔具がお前の呪いが解けた途端壊れた、つまり虚が重傷していたら最悪死んじまう。お前なら何とか出来るだろ」
ギュインッと車あ曲がり、頭を窓にぶつける。運転がめちゃくちゃだ。相当慌てていると思われる。
「虚……僕は、君を失いたくない」
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