4章 決意②
私は今までの事を全て話した。
ある魔術師の亡き妻の魂を降霊させて魔術で作った器に入れる為に器として数々の娘が犠牲になった上で私が作られたこと、犠牲となった娘の1人が監禁されて育った私を伽藍堂へ行くよう何らかの手段で私を逃して殺害されたこと、私は宵に助けられ宵やマヤのお陰で人間らしく生きられたこと。
だけど、その魔術師は私を救ってくれた女性を殺して、私を大切に想ってくれている宵を伽藍堂の森に閉じ込めていること、今も懲りずに亡き妻の魂を縛り続けて苦しめていること……私は正しいかどうか解らないまま伽藍堂から出てしまったこと。
「ふむ、なるほど」
律華はそう言いながら白い湯呑みのような茶器にお茶を注ぐ。
「花が開いたみたいだ」
私は茶葉を見て言うと律華はニコッと笑みを浮かべて
「工芸茶、と言います。薬袋君はよく紅茶を嗜まれるので飲む機会はあまり無いでしょう、どうぞ」
差し出されたお茶を飲んでみる、ふわりと華やかでありつつも落ち着いた甘さを感じる紅茶とは違う美味しさがあった。
「美味しい……あったかい」自然と笑みが溢れる。
「急いては事を仕損じる、と申します。虚さんは何か急いでいるようでした、準備はしっかり行い後悔のないように動く事をお勧めしますよ。」
確かに私は早くしなければと思っていた。急いで魔術師を空深を殺さないといけないと
「律華も魔術師なのか」
「ええ、自身ではそのような事は思っておりませんがそういう分類になるでしょう。何か聞きたいことが有ればお答えしましょう」
「空深って魔術師知ってる?」
「ああ、あの方ですか。1度此処へやって来ましたよ。50年程前でしょうか? 名前は
「50!?」私はお茶を飲もうとして驚く。
「はい、私の記憶が正しければ50年前です」
「魔術師ってのは加齢しないのか」私はお茶を飲みつつ呟く。
「私はある事を経て外見が老いなくなったのです、薬袋君も恐らく少年のままでしょう? 神崎さんは……まぁあの方は特別ですから」
私の周りって変わり者ばかりだったんだ……私が1番の変わり者か。
「神崎さんを頼ってみては如何ですか? 私や薬袋君よりも戦闘に特化した方です。魔術師は大体が魔術戦以外は弱いことが多いのです。戦うつもりでしたら対魔術戦闘に関することを聞いておいて損はないと思いますよ」
律華の言うことには一理ある。私に戦い方を教えてくれたのはマヤだ、マヤに協力を求めても良いかもしれない。
「ちょっと携帯電話……」と、取り出すとバイブレーションが鳴っていた。携帯電話の画面には【宵】と書かれていた。
「もう、目を覚ましたのか」まずい、使い魔を放たれると居場所がバレる。
「薬袋君ですか?」
「あ、うん」着信は切れて、不在着信が十数件入っていた。
「あの方も随分と変わりましたね。良いでしょう……あなたの望む未来の為に助力しましょう」
そう言って律華は手の平からふわりっと紅い羽を出した。
「それ、凛太郎の時の」
「ああ、あの盲目の少年ですね。彼の件は解決したあと薬袋君から使い魔を寄越して貰って聞きました。
そうです、これはあなたが行きたい場所まで無事に行けるように結界を張ってくれるお守りです。
薬袋君からも見えないようになります。これを握って神崎さんのところまで向かってください。効力はそれ程長くはないので」
私は頷いて立ち上がる。
「お茶、御馳走様でした。もしまた来れたら此処に……宵と一緒に来たいな」
「お待ちしていますよ、私は」
律華の言う事に、少しだけ寂しい気持ちになった。
「さよなら、律華」
「ええ、またのご来店お待ちしております」
店の扉を閉めて私は近くでタクシーを拾ってマヤの住むマンションへ向かった。
マヤの住むマンション前
タクシーを降りて、マンションの中に入ってロビーに入る為にマヤの部屋番号を機械に入力してインターホンを鳴らす。何回か繰り返していると応答反応があり
「はい、神崎ですがどちらさま」
「私……虚、マヤに助けて欲しくてきた。お願い、力を貸して」
そう言うと無言で応答反応のランプが切れてロビーへの通路が開く。私はくしゃみをしつつマヤの部屋に向かった。
マヤの部屋
「入れてくれてありがとう」部屋の扉を開けてくれたマヤに言うとマヤは珍しく眼鏡をかけて黒いTシャツに短パン姿でポカンとしていた。
「取り敢えず風呂入れ、まだ温かいから。私はコンビニで下着買ってくる。」
マヤが出ようとした時、マヤの手を掴む。
「マヤ、宵には言わないで。自分の意思で伽藍堂を出たんだ」
マヤはわかったと呟いて出ていく。私は鍵をかけてバスルームへ行きお風呂を借りる。
髪の毛と身体を洗ってお湯に浸かる。
「……私は、もう宵には会わないって決めただろう」
お湯に浸かりながら顔を叩いて呟く。覚悟を決めるんだ、虚。
ふぅ……と一息吐いてお風呂から上がりシャワーを浴びて脱衣所に行くと値札が切られた下着とマヤのオーバーサイズの黒いTシャツが置かれていた。
着替えて、ドライヤーで髪を乾かしてリビングと寝室が一体化した部屋へ行く。
「ありがとう……って何してるんだ?」
「この携帯電話って発信機代わりになってるんだ、だからこれをいじって発信機機能を停止したんだ。魔術関連は苦手だけどこういうのは出来んだよ
ほら、これで宵は今お前が何処にいんのか解らない、なんだかんだ言って携帯電話は使うことあるだろ」
トンッとテーブルに私の携帯電話を置く。
「……これ、嫌い」私はそう言いながら電源を切った携帯電話を鞄の中にしまった。
「いいから持ち歩いとけ、で……事情を聞こうか」
マヤは座っているソファーに座るように言ってきたので私は隣に座る。
私は桃子に出会ってから律華と話して此処に来た事を話した。
「ああ、律華の入れ知恵が今回は良い方に動いてくれてよかった……あの澄まし顔の仙人」
マヤが苦手そうなのは想像していたが本当に苦手だったんだ。
「まぁ良い。取り敢えず何か飲み物出すか……何あったかな」
ソファーから立ち上がり、マヤは台所でお湯を沸かしながら何かを作っている。
私はソファーで眠くなって来たのを堪えて周囲に目を向けているとマヤはマグカップを持ってきた。
漂う甘い匂いに私は驚いてしまう。
「ココア? マヤが?」
「糖分が必要な事もあるんだよ」
な、なるほど。
煙草とミントガムとコーヒーしか印象のないマヤにもそういう意外な部分があったのか。
「あったかい」マグカップを受け取るとじんわりと手のひらにマグカップの温度が伝ってくる。
「明日、行くんだろ……空深の屋敷に。場所は教えてやるし魔具もとっておきの貸してやる。」
マヤはマグカップをテーブルに置き、私もマグカップを置く。
そうすると突然、マヤが私の頭をぐいっと引き寄せて抱きしめてきた。
「マヤ」私は耐えていた気持ちが溢れそうになり離れようとすると
「今のうちに泣いて吐き出しとけ」マヤに抱きしめられてその優しさに自然と涙が溢れ出てきた。
私は吐き出してはいけない本音をマヤに向けてぶちまけて、気がついたら眠くなって眠ってしまっていた。
泣き崩れて寝てしまった虚の寝顔をしばらく眺めた後、
「お前、こんなにも人間らしくなったんだな」
虚の頭を撫でて私は虚の飲み終わったココアの入ったマグカップを洗ってPCデスクに自分のマグカップにコーヒーを淹れ直したのを置いて自分で調合した錠剤薬を適当に取り出して飲む。
「ふぅ……虚をどうするかは、私次第か」
そう言いつつベッドの引き出しから昔から作っている魔力を流すだけで魔法が発動する魔具を取り出す。
「虚、お前死ぬ気で行くんだろうけど……師匠として、友達としてそういう考えは嫌いなんだよなぁ」
PCデスクに戻り持っていた1つの魔具を見つめる。それは祓魔師として悪魔を祓い続けた時に大事な奴がくれた白い月の形を模した水晶のネックレス。
“マヤが大事な奴を本気で守りたいと思えた奴がいたら渡せ”
そう言っていた。
「虚、私結構……伽藍堂のこと好きみたいだ」
私はコーヒーを飲みながら警察として提出する報告書を作成し提出、その後ゆっくりとコーヒーを飲み天井を仰ぐ。
「なんか、私も眠たくなってきたな……」
私は立ち上がり、外の空気と煙草を吸おうと外に出ると虚を探していたのか宵の使い魔がベランダの欄干にいた。
「宵、明日昼前に伽藍堂行くから宵に伝えとけ」
煙草に火を着けながら呟くように言うと使い魔は羽ばたいて伽藍堂の方へ戻って行った。
「私に出来る事はやっといてやる」
私はあくびをしながら煙草をさっさと吸って灰皿に吸殻を押し潰して部屋に戻り、空になったマグカップを洗いソファーで眠った。
翌日
「おはよう、虚。よく眠っていたな」
目が覚めると
「何食べるか解らなくて適当に朝買って来たんだ。歯ブラシとかも新しく買って来たの洗面台にあるから使って良いぞ」
マヤに言われて私は身支度をして、昨日洗って乾燥までかけてくれたいつもの白いノースリーブのワイシャツとスキニーパンツに着替えて黒いネクタイをキュッ! としめてリビングに戻る。
「飯食ったらお前は此処に行け、空深の家のある場所だ。あと、この魔具一式貸してやるよ」
マヤは朝食をとりながら説明を始めた。
昨日、宵の使い魔がマンションに来たのでマヤが昼前に伽藍堂に行って宵を引き止めること。
しかしこれが出来るのは空深菫が生存している間だけだと言う。もし空深菫が死んだ場合は宵の呪いが解けて伽藍堂の外に出れるようになる。
「そうなったら確実に空深の屋敷に直行する、その前に確実にやることをやれ」
私は頷き、マヤから預かった魔具を身につける。
「これ、魔力を通せば思った形、能力になるんだよな」
私は錠剤サイズくらいの小さな粒状の魔具を持って聞く。マヤは嗚呼と頷いた後、私はそれを飲み込んだ。
「何しとんじゃ!? お前!!」
「奥の手だからな、安心しろ……多分吐き出せる」
「ったく、変な事ばかり考えるなぁ……よし途中まで送ってやる。そっからは1人だ。良いな」
「嗚呼」
私はマヤを抱きしめる。
「今までありがと」私がそう言うとマヤは私の背中を軽く叩いて
「当たり前だ、弟子の為ならなんだってしてやらぁ」マヤにそう言われ私はマヤに微笑んで2人でマンションを出て行った。
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