1章 命③
僕は生まれてすぐ、お母さんに殺されました。
僕達は産まれるまでの間ずっとお腹の中にいる時殴られ続けて、生まれたらすぐ殺されました。
僕達……みんなみんなお母さんに殺されました。
お父さんは誰か分かりません。お母さんしか分かりません。
だけど、お母さんは私たちを殺しても僕達を作る行為を止めませんでした。
気持ちいいから、らしいです。お金がたくさん貰えるから、らしいです。
だから、こうなってしまったら……僕達でお母さんを止めよう。僕達を殺したお母さんたちを僕達で殺そう。
これは、僕達の最初で最後の"復讐"だ。
最初は難しかった、でも最近はとても簡単に殺せるようになりました。
今日もお母さんを殺そう。
お母さんはどこにでもいます、見つからない日がないくらい……その辺にたくさん……。僕達が殺されたこの街。
ホテルと呼ばれる場所に今日のお母さんは珍しく学校の服で男の人にべったりくっついて入って行く。青いブレザーに灰色のスカート、黒縁の眼鏡……うん、覚えた。
今日のお母さんはいつものお母さんよりも短い時間で出てきて男の人と別行動しています。でもやっぱり離れる前にキスって呼ばれる行為を男の人にするんだなぁ。
後から知ったのですが、それは一種の愛情表現で抱きついたりキスをしたりは親が子にする行為でもあるようです。
どうして、僕達にはしてくれなかったんだろう。
「胸の奥が……痛いよ」
僕は廃墟と呼ばれる汚いビルの屋上のフェンスを握りしめながら胸を押さえつける。
「楽にしてやろうか?」
突然、身体にビリビリと電流が走るような寒気? 何だろうこれ
それにこの声は聞いたことがある。
「嘘……何で、お母さん」
僕が振り返ると、川の近くで殺したお母さんのそばに居たお母さんが黒縁の眼鏡を外してつまらなさそうな顔で立っていました。
え、さっきまで向こうのホテルで男の人といたのにどうして……??
「私は親にはなれないんだけど……何でラブホの前にいた奴が此処にいんの? って顔してるね」
殺さなきゃ……1人でも多くのお母さんを
「まぁ、お前があんな殺気放って視線送ってきたら誰だって気づきそうなもんだけど」
殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃっ!!
僕は包丁を握りしめてお母さんの背後に回り込んで首を目掛けて刃を立て引いた。
切った感覚が、ない。僕は
「遅っ」
背後から聞こえた言葉と同時に背中に思い切り、ドンッ! と身体の中で響くような痛みを受けフェンスの方に吹っ飛ぶ。今、蹴られた? 包丁がない。フードも脱げる。
何、何が起きたの!?
「痛いっ! 痛いよっ!!」
身体を抱きしめて床にうずくまる僕をお母さんはまたがってきて僕の顔を隠していた布すら奪われる。継ぎ接ぎまみれの僕の顔を見てもお母さんは何も感じないのか眉一つ動かさなかった。
この人、普通のお母さんじゃない。
「殺す前に聞きたい事があったんだ」
お母さんは携帯電話を取り出してどこかに通話状態にしたままポケットにしまって僕の両手両足の塞いできた。
「質問1、何で6人目まで殺したんだ?
5人目までは自分の母親への復讐だろ。陰部に捩じ込まれた赤子の骨と死体のDNA親子関係である事を証明した」
「お母さんが僕達を作るから」
「6人目のあの子は処女だった。性行為を行っていないし売春もしていない。それに陰部に骨はなかった。
あの子はお前の言う
この人、怖い。
腕を伸ばそうとしても、体をねじってもビクともしない。全く動けない。
「2つ目、奪った子宮は何処にやった」
しきゅー?
「なんで特定の臓器を奪ったんだって聞いてるんだ、腹を食い破って奪ったろ」
ああ、僕達の存在した証。
僕達を殺すために作る場所なら壊せばいいってあの人に言われた。
「あれは壊さなきゃいけなかったから、僕達みたいなのを増やしちゃダメ
ねぇ、もう良いでしょ? 僕達は何も悪いことをしてないんだよ……本当は殺したくなかったもん」
僕達は復讐以外、何もしてない。何も悪いことじゃない。
「3つ目、お前の殺害動機は自分たちのような復讐者を出さないためと言いつつ6人目を殺した後も今も楽しそうな顔をしていられるんだ」
氷のように冷たく、刃のように鋭い眼差しが僕たちを見つめる。その瞳に写っている僕の顔は
え?
笑っていた、歪な弧を描いた口と楽しくてたまらないという目をしていた。
嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!!
違う、こんなのダメだっ!
これじゃあ、まるで「僕がお母さんと同じみたいじゃん」
血の涙を零しながら僕は溢れる気持ちを吐露した。
「そうだな、お前も欲に溺れた怪物かもな
だって生殖器のない人形である私も殺したい程、お前にとっての殺人という行為はたまらない快楽を得られたんだろ」
そう言ってお母さんはいつの間にか持っていた僕の包丁で僕の胸を突き刺した。
全身を痺れさせる激痛と同時に体の中で蠢いていた何かがすぅ……と消えていく。僕たちが一人一人消えていく。
「……君だって僕と同じ作られた側のくせに生意気だなぁ」
ああ、でもこれで僕はもう……何も失わないで済むんだ。
「……まるで、白い花びらみたいだ」
花びらのように消えていく殺人鬼に跨っていた私はそう呟いて立ち上がる。
「……同じ、作られた側」それはどういう意味だろうか?
私の身体が人形である事が作られた側、という意味か?
それとも私自体が誰かに何かを目的として作られた何か、という意味なのだろうか?
「いやー、お疲れさん」
ビルの屋上にある貯水タンクの裏からマヤが出てきた。ずっと見ていたのか……コイツに聞けば何か分かるかもしれない。
「……私が作られて側ってどういう意味」
軽々と数メートルはある高さからジャンプして降りてきたマヤに私が聞くとマヤは考える仕草をした後
「作られた側って色んな意味あるからな、子供は親から作られたもんだしそういう意味なのかー、あとはお前の記憶にない虚になる前の何かを感じ取ったのか」
以前の私
「ただ言えんのは、死者の言葉にあんま耳向けんな」
正論だ。あいつらは母親に殺された赤子の怨念の塊が具現化した存在。
死者だ。
「そいや、さっきホテルで相談してきたじゃんか? 答えは見つかりそうか?」
マヤは喋りながら使い捨てのビニール手袋をはめつつ今回の殺人鬼の包丁を回収して、殺した場所に落ちていた不気味な巾着袋をを拾っていた。
私は、はぁ……とため息を吐きながらホテルで話していた事を思い出していた。
2時間前、ラブホテルの一室にて
「随分と落ち着いてないな。年頃になるとこういう場所気にしちゃう?」
いつもより男性みが強い(性別:女性)マヤはニヤニヤと笑いながらでかいベッドに座って立っている私を見た。
「人形の私にそんな感情あんのか」
マヤは私をじっと見つめた。
「お前は身体が人形なだけで魂は人間なんだろ。
それに人形人間関係なく感情がありゃ……まーそういう性欲とか恋愛感情とか芽生えんじゃね?
ただこれだけはどうしようもないけど、子供を作る行為が出来ても子供が出来る事はない。女の子にはキツイ話かもしれないが」
天井にある照明を見ながら呟くマヤ。
「それはどうでもいい、人間を好きになる以前に私は好きの種類がわからないし……キスされてもどういう反応していいかわからなかったしあれがキスだ「誰にされたんだ!! お前ぇぇぇ!?」
私は近くにあった2人掛けのソファーに座りながら宵に目薬をさして貰った時の事を思い出しながら話すとマヤがいきなり隣に座って両肩を掴んで叫んだ。
……こんな奴だったけ、マヤって
「あ、いや……多分宵にキスされた、と思う。目ぇ瞑ってたからよく分からないけど多分?」
「じゃあ再現しよう」
「は? お前何言ってっ!?」言い切る前にマヤの唇が私の口を塞ぐ。驚いて全身の力が抜け、そのままソファーに押し倒される。
「こんな感じ?」
マヤは私にまたがるような体勢になって、唇を離して聞いてきた。
「いや、舌まで突っ込まれてねぇし……マヤはなんか苦い」
でも、唇が重なる柔らかい感触は凄く似ていた。
「喫煙者と禁煙者の違いだな、そっかー宵にもそういう感情や欲が芽生えたか。人間味が出てきたじゃん」
「キスって何の為にするの? 宵に聞いたら分からないって言われた」
「何の為……かー。人によるかな? 中にはさ性欲吐き出す為に誰とでもSEXする奴もいるんだ、今回の被害者の相手みたいな奴等とかな
でも大抵は嫌いな奴には出来ねぇよ。宵だって私だって」
「そんなもんか、まぁ嫌われてないならいいや」
心の中にあったモヤモヤが晴れたような気がする。ああ、安心した。
「マヤ、さっきアイツがいた。殺しに行く。」
マヤの顔からスッと表情が消える。私も心の中にあった雑念が消えて安心して依頼を達成出来る。
現在に戻る。
「じゃあ私、帰るから後はよろしく」
魔眼を使わないようにマヤが用意してくれた眼鏡をかけ直す。硝子や何かを間に挟めておけば魔眼の誤発は殆ど無い、らしい。
「おう、ゆっくり休んでくれ……私は署に戻る」
マヤは回収した巾着袋の中身を見て複雑な心境を抱えていたように思えた。
まぁ、もう終わった事だしさっさと伽藍堂に帰ろう。
ビルの中に入り扉の近くに置いておいた紙袋の中から黒いスキニーパンツを取り出して履きスカートとジャケットを脱いでネクタイを外して黒い革ジャンを羽織って出ていく。流石に制服のような格好で歩いていれば補導されかねないからな。
私は紙袋を持ってタクシーを使って伽藍堂のある森の近くまで移動した。
伽藍堂
「ただいま」
伽藍堂の裏口から入り、住居スペースにあるリビングに行くとパジャマ姿でソファーでだらけて眠っている宵がいた。
「……」
そのまま少し寝かしておくか。多分、徹夜していたんだろう。
そう思いシャワーを済ませてパジャマに着替えて戻ってもまだ宵は眠っていた。
完全に寝落ちしたんだな。
「自分の部屋で寝ろよな」
ローテーブルの上にだし巻き卵とたこさんウインナー、おにぎりが皿の上に置かれてラップされていた。上に置かれたメモには お疲れ様 と書かれていた。
ガシガシッと雑に頭を掻いて、宵を横抱きに持ち上げる。
「思ったより軽っ」
私はそのまま宵の自室に連れて行きベッドに寝かせ、少しだけ寝顔を近くで見てからリビングに戻る。
「夜食っていうか朝飯だな」
時間は午前3時半、私はいつも使ってるマグカップにインスタントの緑茶を入れてソファーに座る。
「頂きます」ラップを皿から外しておにぎりを食べる。
作られた側……って、子供は皆作られた側だろう。
私が宵に作られた、という意味か?
私自身は……虚になる前がない?
宵が魔術で創り出した人間に最も近づけられた使い魔だった?
ピタッ……と私は宵の作ってくれた夜食を食べる手が止まる。
私の命は、元から人工物だった?
両手で顔を包んで過去の記憶を自分から掘り出す。
確かに、宵と過ごす前の記憶はあるんだ。
「私を必死に何かから逃がした女、私を追いかけて傷つける何か、それから逃げて辿り着いた伽藍堂……マヤが警察として動かなかったのは私には人間という証が無かったから」
必死に思い出して呟く。
私は、人でありたいと望んでいるんだ。
誰かの都合だけで作り出された道具でも部品でもなく一個体として、伽藍堂にいたい。
ソファーに放り出していた携帯電話がバイブレーションを鳴らす。私は携帯電話を開きメールが一通入っていたのを見る。マヤからだ。
from,神崎マヤ
題名,依頼完了、ご苦労さん。
ー本文ー
巾着袋に入っていたのは呪物の類となる殺害された赤子の骨や赤子の墓の位置が記されたメモと呪符が入っていた。後日、宵に浄化と保管を頼む。
事件に関しては解決扱いだ。後処理は任せて休んでくれ。
「マヤも……いや」
私は了解とだけ返信して携帯電話を閉じて、再び夜食を食べ始めた。
リビングの扉の前で、僕は扉を開けることを躊躇った。虚がこんなにも自分の在り方に葛藤出来るくらい感情が蘇った事や僕の知らない何かを思い出し始めている。
「話すべきなのかな、あの子にあの日のこと」
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