第13話
「……さあ、ヤマト様。覚悟はよろしくて?」
砂浜に響く、セシリアの透き通った、しかし逃げ場を許さない冷徹な声。
一歩、また一歩と、ヤマトを囲む「ヤンデレ・オールスターズ」が円陣を狭めていく。
ルナリスは漆黒の鎖をジャラリと鳴らし、バルバラは略奪者の眼光でヤマトの腰を狙い、目覚めたアルテミスは「魔界の掟に従ってもらう」と紅蓮の瞳を輝かせている。
「ま、待て! 話せばわかる! 俺はただ、みんなの傷を治したかっただけで……っ!」
「ええ、分かっていますわ。ですから、今度は私たちが貴方を『愛で』殺して差し上げますの」
セシリアが手を伸ばし、ヤマトの指先に触れようとした、その瞬間だった。
――ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
突如として、島全体が悲鳴を上げるような重低音が響き渡った。
「な、なんだ!? 地震か!?」
ヤマトが叫ぶ間もなく、彼の足元の砂浜が、まるで巨大な怪物の口が開いたかのように、円形状に崩落を始めたのだ。
「えっ、あ、ちょ、待っ――」
「ヤマト様ぁーーーっ!?」
ヒロインたちの絶叫が遠ざかる。ヤマトは、砂と海水と共に、暗黒の深淵へと吸い込まれていった。
ドサッ、という鈍い衝撃。
ヤマトが目を開けると、そこは太陽の光が届かない、青白い魔石の光に包まれた巨大な空洞だった。
そこには、地上とは全く異なる文明が広がっていた。立ち並ぶのは石造りの塔ではなく、鈍く光る金属と歯車で構成された、機械仕掛けの街――数千年前に滅びたとされる地下帝国『アガルタ』。
「生きてる……のか? 俺」
ヤマトが身体を起こそうとしたとき、冷たい金属の感触が首筋に触れた。
「――未登録の生体反応を確認。……解析。……種族、人間。性別、雄。……有害事象と判断し、排除プロセスを開始します」
目の前にいたのは、透き通るような銀髪と、人形のように整った無機質な美貌を持つ少女。
しかし、その腰から下は四本の鋭い機械脚(アラクネ・レッグ)になっており、背中からは数本の魔導ケーブルが伸びていた。彼女はこの帝国の管理AIであり、唯一の生き残り、守護機官エニグマ。
「ま、待て! 排除の前に、君のその左肩……! 魔力回路がショートして、火花が出てるぞ!」
エニグマの動作が止まる。
「……自己診断。……左肩部、マナ・サーキットの老朽化によるオーバーヒート。修復不可。機能停止まで残り120秒」
「俺なら直せる! ……いや、俺の『スキル』なら、直せるはずだ!」
ヤマトは死に物狂いで、彼女の冷たく、けれど滑らかな「人工皮膚」が張られた肩の接続部へ手を伸ばした。
『――検知:古代魔導技術による「疑似神経網」の損傷』
『補足:無機物への干渉につき、通常以上の「濃厚な魔力結合」が必要です』
『スキル【神聖なる悦楽の再生】……本日は【鋼鉄の処女・強制再起動(メカニカル・リブート)】を執行します』
「うおぉぉりゃあああ!」
ヤマトの掌が、エニグマの肩の「接合部」に深く食い込む。
黄金の魔力が、冷徹な機械回路へと流し込まれた。
「――ッ!? ……あ、ぁ……システム……エラー。……熱い……。冷却水(オイル)が、逆流……っ」
エニグマの無機質だった瞳が、初めて激しく明滅した。
ヤマトの魔力が回路を通るたび、彼女の電子頭脳には、プログラムには存在しないはずの「快楽」という名のバグが、数万件の警告と共に書き込まれていく。
「な、に……これ。……計算不能。……胸の奥のコアが、激しく……脈動して……っ。あ、ぁあぁっ! ギアが……ギアが、勝手に回っちゃうぅぅうう!!」
冷徹な機械人形が、ヤマトの指先の熱に当てられ、膝の関節をガクガクと震わせる。
ショートしていた肩の回路が、甘い熱量と共に結合し、新品以上の性能で再構築されていく。
数分後。
エニグマは真っ赤になったセンサー(頬)を隠そうともせず、機械脚でヤマトを逃がさないようにガッチリと檻のように囲い込んだ。
「……修復完了。……しかし、深刻な不具合を検知。……私のメモリーが、貴方の指先の感触で埋め尽くされました。……貴方を解放すれば、私のシステムは二度と正常に機能しません」
エニグマの瞳に、赤い「独占(ロック)」の文字が浮かぶ。
「……ヤマト。……貴方をこの地下帝国の『永久動力源』に設定します。……逃亡を試みる場合、帝国の全自律兵器をもって、貴方の衣服を……そして理性を、完全に剥奪します」
(ついにAIまでヤンデレ化したよ!!)
しかし、頭上の岩盤が激しく揺れ始めた。
地上のヤンデレ軍団が、ドリルや魔法で、ヤマトを奪還するために「穴」を掘り進めているのだ。
「ヤマト様ぁ、穴を掘ってでも追いかけますわよ!」
「地下に逃げれば済むと思ったかぁ!」
「(……いっそ、このまま一生機械にメンテナンスされてる方が楽なのか!?)」
ヤマトの「極楽と地獄の追いかけっこ」は、ついに地底の深淵までをも巻き込んでいく!
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