第6話
「……ここなら、さすがに誰も来ないだろ。……たぶん」
海賊船から命からがら小型ボートで脱出し、辿り着いたのは地図にも載っていない絶壁に囲まれた山系だった。ヤマトは木々を掻き分け、険しい山道を登り続ける。
背後には執念深い海賊女王、空から追いかけてくるであろう聖女、そして執念のダークエルフ。彼女たちの愛から逃れるには、もはや仙人のような生活を送るしかない。
だが、山の中腹まで来たとき、ヤマトは茂みの奥から漏れる、切実な**「熱い吐息」**を聞きつけた。
「……あ、う……っ。だれか……だれ、か……っ」
そこには、狼の耳とふさふさの尻尾を持つ獣人の少女、ガウルが倒れ込んでいた。
彼女の太ももには、猛毒を持つ野獣の牙跡が深く刻まれている。しかし、その傷以上に彼女を苦しめていたのは、獣人特有の「発情期」と、傷口から回った「神経活性毒」の混じり合いだった。
「おい、大丈夫か!? 獣人の子……すごい熱だ……」
「……にん、げん……? くる、しいの……。からだが、内側から……火がついたみたいに、あつい、よぉ……っ」
ガウルが潤んだ瞳でヤマトを見上げる。彼女の尻尾は力なく地面を叩き、獣の耳は激しい快感と苦痛の混濁にピクピクと痙攣していた。
「(見捨てられない……。でも、俺が触れたらまた……!)」
葛藤するヤマト。しかし、彼女の傷口から流れる毒が黒く変色し始めたのを見て、ヤマトは腹をくくった。
「ごめん、ちょっと失礼するぞ!」
ヤマトの手が、ガウルの太ももの付け根、最も毒が集中している熱い肌へと触れる。
『――野生解放:対象は極度の「接触飢餓」状態です』
『スキル【神聖なる悦楽の再生】起動。獣人の本能に直接働きかける「野生還元ヒーリング」を執行します』
「――ぁ、にゃ、あぁぁああああんっ!?」
ヤマトの掌から溢れ出した黄金の魔力が、ガウルの野生の血を沸騰させた。
毒を浄化するプロセスが、彼女にとっては「最強の求愛行動」として脳に叩き込まれる。ヤマトが指先を動かし、毒を吸い出すようにマッサージをするたび、ガウルの背中は弓なりに反り、ふさふさの尻尾がヤマトの腕にギュルンと巻き付いた。
「なに……これぇ! 人間の魔法、すご、すぎる……っ! 骨まで、溶けちゃう、あぁぁっ!!」
ガウルはヤマトの胸板に顔を埋め、獣特有の鋭い牙を、甘噛みするようにヤマトの肩に立てた。
毒は一瞬で消え去り、傷跡も綺麗に塞がっていく。しかし、治療が終わってもガウルの瞳からはハイライトが消え、ドロリとした「つがいの独占欲」が溢れ出していた。
「決めた……。お前、ガウルの……『番(つがい)』……。どこへ行くのも、一緒……」
「いや、俺はただの旅の治癒師で……っ」
「ダメ。逃がさない。お前の匂い、覚えた。地の果てまで、追いかける。逃げたら……ガウルの群れ全員で、お前を捕まえて、一生洞窟の中で『治療』させる……っ」
ガウルの爪がヤマトの服をバリバリと引き裂く。野生児ゆえの、加減を知らない純粋で重すぎる愛。
ヤマトはゾクりと震えた。このままだと、本当に「獣の嫁」として山に一生監禁されてしまう。
「ごめんガウル! これで……ぐっすり眠ってくれ! 【終焉を刻む指先(ラスト・ピリオド・タッチ)】!!」
ヤマトはガウルの、最も敏感な「耳の付け根」と「尻尾の付け根」に同時に指を滑らせた。
獣人にとって、そこは魂の聖域。
「――っ!? ぁ、ひゃ、ひゃわああああああああぁっ!!!」
ガウルは、脳内の快感物質が爆発するような衝撃を受け、全身の毛を逆立たせたまま、至福の表情で真っ白に燃え尽きた。
尻尾をピンと直立させたまま、彼女はそのままヤマトの腕の中で、幸せの絶頂(ピリオドの向こう側)へと旅立った。
「ふぅ……。今のうちに、山の反対側に降りるぞ!」
ヤマトは気絶したガウルをそっと草むらに寝かせ、脱兎のごとく駆け出した。
しかし、山の向こう側には、港からヤマトの匂いを追ってきたルナリス、海賊船で接岸したバルバラ、そして聖騎士団を引き連れた聖女セシリアが、今まさに集結しようとしていた。
「……あ。あの山、ヤマトの匂いがする」
「ふん、陸に逃げたか。逃がさねえぞ……!」
「ヤマト様を独り占めしようとする不届き者は、私が浄化いたしますわ」
ヤマトを巡る、四つ巴のヤンデレ大戦争。
その中心地へと、ヤマトは自ら飛び込もうとしていた――。
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