第3話

宿場町『リーブル』の夜は、ヤマトにとって安らぎの場になるはずだった。……が、現実は甘くない。

​「……なぁ、ルナリス。なんで当たり前のように同じベッドに入ってきてるんだ?」

「当然だろう。貴方は私の恩人であり、私の体の中を……あんな、熱い魔法でかき回した男だ。護衛が必要なはずだ」

​宿屋の一室。狭いシングルベッドの中で、ルナリスは薄手のシュミーズ一枚という際どい姿でヤマトに密着していた。

ダークエルフ特有のしなやかで力強い脚が、ヤマトの腰に絡みつく。彼女の肌からは、治療の影響か、どこか甘く芳しい香りが漂い、ヤマトの鼻腔をくすぐる。

​「護衛っていうか、これじゃ俺が襲われてるみたいなんだけど……」

「ふふ、襲ってほしいのか? 貴方のあの『指先』……思い出すだけで、ここが、疼くんだ……」

​ルナリスがヤマトの指を一本、自分の唇に含んで、艶めかしく舌を這わせる。

その瞬間、ヤマトの脳内に無慈悲なアナウンスが響く。

​『――検知:対象の親密度が限界突破。スキル【神聖なる悦楽の再生】がスタンバイ状態です』

『補足:指先一本の接触により、対象の脊髄へ快感信号をダイレクト送信可能です。実行しますか?』

​「実行しなくていい! 寝かせてくれ!」

​ヤマトは必死に理性を保ち、隙を見てベッドから転げ落ちた。

「私を……拒絶するのか? もし、他の女のところへ行くつもりなら……その足を折ってでも、ここに繋ぎ止めるが?」

暗闇の中、ルナリスの瞳が怪しく光る。感謝が重すぎて、もはや殺意に近い独占欲が見え隠れしていた。

​(ひ、ひぃぃ……! 助けたはずなのに、なんで命の危険を感じてるんだ俺!?)

​翌朝、ヤマトは目の下にクマを作った状態で、逃げるように宿を出ようとした。しかし、そこへ豪華な紋章が刻まれた馬車が止まる。

​「ヤマト殿とお見受けする。我が主、フェリス・ローラン侯爵令嬢がお呼びだ」

​現れたのは、銀光りする鎧に身を包んだ女騎士、カミラだった。

凛とした顔立ちに、意志の強そうな瞳。だが、彼女が差し出した招待状を持つ手は、かすかに震えている。

​「……私の主は、原因不明の奇病に罹っている。あらゆる治癒魔法を試したが効果はなかった。だが、貴殿の『特殊な治癒術』の噂を聞いた。……汚らわしい男を近づけたくはないが、背に腹は変えられん。来てもらおう」

​カミラの視線は鋭く、ヤマトを「不審な変質者」として警戒しているのが丸わかりだった。

横ではルナリスが「ヤマトをどこへ連れて行く気だ?」と、今にも剣を抜きそうな殺気を放っている。

​「わ、わかった! 行くから、二人とも落ち着け!」

​辿り着いた侯爵邸。

豪華な天蓋付きのベッドに横たわっていたのは、陶器のように白い肌を持つ美少女、フェリスだった。

彼女はヤマトを見た瞬間、シーツを胸元まで引き上げ、真っ赤な顔で震え出した。

​「こ、来ないで……。今の私は……風が吹くだけで、その……変な声が出てしまうの……っ」

​彼女の病は『魔力過敏症』。全身の感覚が数千倍に跳ね上がり、衣服が擦れるだけで絶頂に近い刺激を受けてしまうという、あまりにも酷(エロ)い呪いだった。

​「……カミラ、彼女の背中の中心にある魔力の結節点を解かないと、この呪いは解けない。そのためには……」

「そのためには、何だ?」

「直接、肌に触れて、俺の魔力を流し込む必要があるんだ。……かなり、激しい刺激が伴うけど」

​カミラが剣の柄に手をかける。「貴様、もし少しでも卑劣な真似をしたら……」

「わかってるって! 治療なんだから!」

​ヤマトは覚悟を決め、震えるフェリスの背中にそっと手を触れた。

その瞬間――。

​「――っ!? あ、ああぁぁぁああああっ!!」

​フェリスの口から、淑女にあるまじき、甘く激しい絶叫が飛び出した。

ヤマトの指が触れた場所から、まるで電流のような快楽が彼女の全身を駆け抜ける。

​『――高感度モード:対象の全神経が露出状態です』

『治療開始。一撫でするごとに、対象の精神に「ヤマトなしでは生きられない」刻印を上書きします』

​「ちょ、勝手に変な刻印を追加するな!」

​ヤマトの指が、フェリスの背中のくぼみをなぞる。

彼女は激しく身悶えし、シーツを噛み締めながら、涙を浮かべてヤマトを見上げた。

​「あ……あぁ、これ……すごい……。ヤマト様の、指……もっと……もっと強くして……っ! 壊れちゃうくらい、私を、癒やしてぇっ!」

​その様子を横で見ていた女騎士カミラは、顔を真っ赤に染め、怒りと……そして自分でも気づかない「嫉妬」に震えていた。

​「き、貴様! お嬢様に何を……何という破廉恥な真似を……っ。だが、お嬢様の肌が、これほど艶やかに……!? くっ、卑劣な術だ……なのに、なぜ私の胸も、こんなに騒ぐのだ……ッ!」

​数分後。

呪いが解け、スッキリした顔(と、完全に愛の重い目)になったフェリスがヤマトの手を握りしめた。

​「決めましたわ。ヤマト様、今日から貴方は私の専属主治医です。……お断りは許しません。もし逃げようとしたら、侯爵家の権力を使って、貴方を地下牢に閉じ込めてでも、毎日治療していただきますから」

​「……私も、貴殿の監視が必要だと判断した。24時間、文字通り密着して監視させてもらうぞ」

​カミラまでが、どこか熱っぽい視線を送ってくる。

後ろからは「ヤマトは私のものだと言ったはずだ……!」とルナリスの殺気。

​(……よし、逃げよう。今すぐに!)

​ヤマトは隙を見て、開いた窓から庭園へと飛び出した。

「待ちなさい、ヤマト様ぁ!」

「逃がさんぞ、変態魔術師!」

「私のヤマトを返せぇ!!」

​三人の美しきヤンデレヒロインたちに追われながら、ヤマトは異世界の夕陽に向かって全速力で走り出した。

彼の平穏な日々は、まだ遥か彼方にあるようだった。

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