第25話 交渉役は、彼女だった

「私がやる」


 ひよりは、

 迷いなく言った。



「……いいんですか?」


「いいもなにも」


 ノートPCを開きながら、

 当然のように続ける。


「桐生くん、

 交渉向いてないでしょ」



 否定できない。



「向こうは、

 “若い個人”だと思ってる」


「だから――」


 指を立てる。


「組織っぽく見せる」



 返信文は、

 丁寧で、

 少し距離がある。



《現在、複数案件を検討中です》

《条件次第では前向きに》

《まずは詳細をご提示ください》



(強い)



「嘘じゃないよ」


 ひよりは言う。


「選べる立場に、

 もういる」



 数時間後。


 返事は、

 想像以上に早かった。



 条件が、

 上がっている。



「……引いた?」


「いや」


 ひよりは即答。


「様子見」



 次は、

 制約の洗い出し。


・記事内容の自由度

・予想行為の線引き

・解約条件

・知的財産権



「ここ」


 ひよりが指差す。


「書いた記事、

 二次利用不可ってある」



「つまり?」


「自分の商品に

 使えなくなる」



 即、修正要求。



 ひよりの言葉は、

 柔らかい。


 でも――

 一切、引かない。



「ねえ」


 ふと、

 彼女がこちらを見る。


「桐生くん」


「はい?」


「これ、

 仕事だよ」



 胸が、

 少し熱くなる。



 前世では、

 一人で全部やって、

 全部失敗した。



(今回は、違う)



 条件は、

 ほぼ希望通りで

 着地した。



「これで」


 ひよりが言う。


「“小さな事業”から

 “ちゃんとした仕事”に

 なった」



 桐生こういちは、

 思う。


 金が増えたから、

 強くなったんじゃない。


 一緒に考える人が、

 いるからだ。



 外部との接点は、

 確かに広がった。


 でも――

 主導権は、

 まだこちらにある。



 次の勝負は、

 この関係を

 壊さずに、

 どう伸ばすか。

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