第24話 甘い話は、向こうから来る

メールの件名は、

 やけに丁寧だった。



《競馬メディア運営のご相談》



「……来た」


 俺が呟くと、

 ひよりが即座に反応する。


「怪しい?」


「半分」



 差出人は、

 聞いたことのある名前。


 小規模だが、

 界隈では知られている

 競馬系メディア。



「内容、読む?」


「もちろん」



《あなたの分析記事を拝見しました》

《予想ではなく、資金管理という切り口に興味があります》

《当メディアで連載をお願いできませんか》



 条件。


・原稿料

・成果報酬

・名前はペンネーム

・顔出し不要



「……悪くない」


 ひよりが率直に言う。


「でも」


 俺は、

 画面を見たまま言う。


「縛られる」



 連載。


 露出。


 信頼。


 同時に――

 自由を失う。



「ねえ」


 ひよりが、

 少し真剣な顔で言う。


「選択肢、

 増えたよね」



 その通りだ。


 前世では、

 こんな話、

 一度も来なかった。



「桐生くん」


「はい」


「断っても、

 勝ち」


「受けても、

 勝ち」



 それが、

 一番怖い。



 メールの最後に、

 こう書いてあった。


《一度、オンラインで

 お話できませんか》



 面談。


 言質。


 契約。



(競馬より、

 緊張するな)



 桐生こういちは、

 静かに思う。


 金を増やすフェーズは、

 終わりかけている。


 次は――

 守りながら、

 広げるフェーズだ。



 その一歩目が、

 今。

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