第22話 気づけば、少し良い暮らし

変化は、

 音もなく進んでいた。



 最初は、

 数字。


 3,000円。

 8,000円。

 15,000円。



「増えてるね」


 ひよりが、

 淡々と言う。


「はい」



 興奮しない。


 それが、

 一番の成長だった。



 次に変わったのは、

 時間。



 バイトのシフトを、

 一本減らした。


 代わりに――

 記事を書く。


 分析を、

 まとめる。



(疲れ方が、

 全然違う)



 昼は大学。


 夜は作業。


 でも、

 前みたいな消耗はない。



 ある日。


 ノートPCが、

 急に落ちた。


「……限界か」



 ひよりが、

 即答した。


「買い替えよ」


「でも」


「投資でしょ」



 新品のノートPC。


 値段を見て、

 一瞬だけ躊躇する。


 でも――

 買った。



 罪悪感は、

 なかった。


(これは、

 遊びじゃない)



 食事も、

 少し変わる。


 学食から、

 定食屋。


 たまに――

 カフェ。



「贅沢しすぎ?」


「してない」


 ひよりは即答。


「ちゃんと稼いだ分だけ」



 その言葉が、

 心地よかった。



 通帳を見る。


 桁は、

 まだ少ない。


 でも――

 減らない。



 競馬と、

 決定的に違う。



 桐生こういちは、

 思う。


(これが、

 積み上がる感覚か)



 前世では、

 知らなかった。



 金持ちになるって、

 派手なことじゃない。


 生活のストレスが、

 少しずつ消えていくことだ。



 ひよりが言う。


「ねえ」


「はい?」


「このまま行ったらさ」


「うん」


「私たち、

 普通に――

 勝っちゃうね」



 その言葉に、

 俺は笑った。



 まだ、

 途中だ。


 でも――

 もう、

 戻らない。

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