第21話 最初の一円は、静かだった

通知音は、

 やけに小さかった。



「……来た?」


 ひよりが、

 俺の画面を覗き込む。


「来ました」


 声が、

 少しだけ震えた。



 売上。


 3,000円。



 派手じゃない。

 万馬券でもない。


 でも――

 これは、

 賭けじゃない。



「……現実だね」


 ひよりが呟く。


「はい」



 競馬で稼いだ金は、

 いつも“風”みたいだった。


 吹いて、

 消える。



 でも。


 この3,000円は、

 積み上がる重さがある。



「内訳、見よう」


 ひよりは、

 即座に切り替える。


「どこから来たかが大事」



 購入者は、

 匿名。


 でも、

 滞在時間は長い。


(ちゃんと、

 読まれてる)



「当たる方法じゃないのに」


「だから、です」



 一攫千金を求める人は、

 来ない。


 でも――

 残る人が来る。



 その夜。


 二人で、

 コンビニへ行った。


 理由は、

 ただ一つ。



「乾杯しよ」


 ひよりが言う。


「お酒は?」


「ダメ」


「大学生」



 レジ袋の中は、

 炭酸と、

 少し高めのスイーツ。



「これが」


 俺は言う。


「最初の売上です」


「うん」



 静かな乾杯。



 金額は小さい。


 でも――

 再現性は、確認できた。



 それが、

 何よりも大きい。



 桐生こういちは、

 確信した。


 このやり方なら、

 増える。


 焦らず、

 確実に。



 生活は、

 まだ変わらない。


 でも――

 未来の解像度が、

 一段上がった。



 3,000円は、

 ただの数字じゃない。


 最初の証拠だった。

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