第20話 彼女は、隣に座る覚悟を決めた
ノートPCを挟んで、
俺とひよりは向かい合っていた。
*
「これ、事業計画?」
「一応」
「“一応”にしては、
ガチすぎない?」
ひよりが笑う。
*
「でもさ」
画面を指でなぞりながら言う。
「ここ」
「資金管理」
「メンタル制御」
「レースを“捨てる”判断」
*
「全部、
桐生くん一人で
抱える前提だよね」
*
言葉に詰まる。
(確かに)
今までは、
一人で勝つ前提だった。
*
「手伝うって話なら、
ありがたいですけど」
「違う」
ひよりは首を振った。
*
「一緒にやる」
*
その一言が、
重かった。
*
「私さ」
ひよりは少し視線を落とす。
「競馬、好きなの」
「当てたいからじゃなくて」
「考えるのが、
楽しいから」
*
(同じだ)
心の奥で、
静かに共鳴した。
*
「桐生くんは、
走る」
「私は、
整える」
「役割分担、
どう?」
*
営業。
文章。
構成。
(俺が一番苦手なところだ)
*
「……いいんですか?」
「逃げる気、ないよ?」
*
軽い言葉。
でも、
目は本気だった。
*
その瞬間。
俺は理解した。
これは恋愛じゃない。
……いや。
恋愛より、
重い契約だ。
*
「じゃあ」
俺は、
手を差し出す。
「パートナーで」
*
ひよりは、
一瞬だけ照れてから――
握り返した。
「うん」
*
その手は、
温かかった。
*
こうして。
桐生こういちの事業は、
“二人”になった。
*
競馬の知識で、
金を増やすだけじゃない。
人生の選択肢を、
増やすための勝負。
*
生活は、
少しずつ変わり始める。
学食から、
外食へ。
中古ノートPCから、
新品へ。
*
だが――
まだ、
贅沢はしない。
*
「焦らない」
「うん」
二人で、
同じ言葉を口にした。
*
その慎重さが、
後に。
とんでもない資産を
生むことになるのを、
この時は、
まだ知らない。
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