第20話 彼女は、隣に座る覚悟を決めた

ノートPCを挟んで、

 俺とひよりは向かい合っていた。



「これ、事業計画?」


「一応」


「“一応”にしては、

 ガチすぎない?」


 ひよりが笑う。



「でもさ」


 画面を指でなぞりながら言う。


「ここ」


「資金管理」


「メンタル制御」


「レースを“捨てる”判断」



「全部、

 桐生くん一人で

 抱える前提だよね」



 言葉に詰まる。


(確かに)


 今までは、

 一人で勝つ前提だった。



「手伝うって話なら、

 ありがたいですけど」


「違う」


 ひよりは首を振った。



「一緒にやる」



 その一言が、

 重かった。



「私さ」


 ひよりは少し視線を落とす。


「競馬、好きなの」


「当てたいからじゃなくて」


「考えるのが、

 楽しいから」



(同じだ)


 心の奥で、

 静かに共鳴した。



「桐生くんは、

 走る」


「私は、

 整える」


「役割分担、

 どう?」



 営業。

 文章。

 構成。


(俺が一番苦手なところだ)



「……いいんですか?」


「逃げる気、ないよ?」



 軽い言葉。

 でも、

 目は本気だった。



 その瞬間。


 俺は理解した。


 これは恋愛じゃない。


 ……いや。


 恋愛より、

 重い契約だ。



「じゃあ」


 俺は、

 手を差し出す。


「パートナーで」



 ひよりは、

 一瞬だけ照れてから――

 握り返した。


「うん」



 その手は、

 温かかった。



 こうして。


 桐生こういちの事業は、

 “二人”になった。



 競馬の知識で、

 金を増やすだけじゃない。


 人生の選択肢を、

 増やすための勝負。



 生活は、

 少しずつ変わり始める。


 学食から、

 外食へ。


 中古ノートPCから、

 新品へ。



 だが――

 まだ、

 贅沢はしない。



「焦らない」


「うん」


 二人で、

 同じ言葉を口にした。



 その慎重さが、

 後に。


 とんでもない資産を

 生むことになるのを、

 この時は、

 まだ知らない。

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