第19話 勝ち方は、売れるらしい

アイデアは、

 ひよりの何気ない一言からだった。



「ねえ、桐生くん」


「はい?」


「それさ」


 ノートに並んだ数字を指差す。


「人に教えたら?」



 一瞬、思考が止まる。


「……競馬、ですか」


「うん」


「でも」


 すぐに首を振る。


「予想を売るのは、

 リスクが高い」


「知ってる」


 ひよりは即答した。


「だから、

 “当て方”じゃなくてさ」



「考え方」


 その一言で、

 視界が一気に開けた。



(なるほど)


 俺がやってきたのは、

 予想じゃない。


・レースを選ぶ

・賭けない勇気

・資金管理

・メンタル制御


(これ、競馬じゃなくても使える)



 帰宅後。


 ホワイトボードに書き出す。


「再現できる勝ち方」



 内容は地味だ。


 でも――

 地味だからこそ、

 価値がある。



「勝率を上げる方法」

 じゃない。


「負けない構造の作り方」。



 競馬界隈は、

 派手な言葉が溢れている。


 一発逆転。

 万馬券。

 神予想。


(そこに、

 俺の居場所はない)



 あるのは――

 静かな需要。



「教材」


「ブログ」


「講座」


 ひよりが横で言う。


「全部、

 顔出ししなくても

 できるよね」


「……できますね」



 しかも。


 大学生。

 データ。

 資金管理。


(肩書き、作れる)



 教授の言葉が、

 頭をよぎる。


「説明できる成功」。



「ひより」


「なに?」


「俺、

 やってみます」



「失敗したら?」


「撤退します」


 即答だった。


「競馬と同じです」



 ひよりは、

 少しだけ驚いてから笑った。


「……ほんと」


「?」


「桐生くんって、

 起業向きだね」



 その夜。


 俺は、

 初めて“事業計画”を書いた。


 売上予測。

 リスク。

 撤退ライン。


(賭けてない)


 でも。


(勝負は、してる)



 桐生こういちは、

 ようやく気づいた。


 競馬で得た一番の財産は、

 金でも、予想力でもない。


 負けない設計思想だ。



 それは――

 売れる。


 静かに。

 確実に。

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