第18話 大人は、数字より先を見ている
研究室は、
思ったより静かだった。
*
「桐生くんだったね」
教授は、
穏やかな声で言った。
「最近、成績が安定してる」
「ありがとうございます」
嘘じゃない。
でも、理由は言えない。
*
「今日は、
進路相談だと聞いた」
「はい」
その一言で、
空気が少し変わる。
*
「率直に聞こう」
教授は、
メガネ越しに俺を見る。
「今、稼げているね?」
一瞬、息が止まった。
(この人……)
*
「……はい」
曖昧に、肯定する。
*
教授は、
責めるような顔はしなかった。
むしろ――
少し、安心したような顔。
*
「若いうちに、
結果が出るのはいい」
「でも」
一拍置く。
「再現できない成功は、
実績じゃない」
*
胸に、
重い石が落ちた。
*
「競馬、投資、
方法は何でもいい」
教授は続ける。
「重要なのは、
“人に説明できるか”だ」
*
「説明、ですか」
「そう」
「なぜ勝てたのか。
なぜ続いているのか」
「それを言語化できないなら、
いずれ運に戻る」
*
(……前世と、同じ警告だ)
でも今回は、
違う形で届いた。
*
「桐生くん」
教授は、
少しだけ笑った。
「君は、
考える力がある」
「だから」
声が低くなる。
「肩書きを、作りなさい」
*
就職。
研究。
資格。
事業。
「何でもいい」
「だが、
“君は何者か”を
説明できる状態にしろ」
*
研究室を出た後。
空が、やけに広かった。
*
(肩書き、か)
金は、
いつか減る。
でも――
肩書きは、
残る。
*
ひよりに、
その話をした。
「……なるほどね」
真剣な顔。
「つまり」
「はい」
「桐生くんは、
天才ギャンブラーで
終わる気はない、と」
「その言い方は……」
「嫌いじゃないけど」
*
二人で、笑った。
*
桐生こういちは、
ようやく理解した。
大人が言う“安定”は、
金の話じゃない。
説明できる未来の話だ。
*
次に選ぶ一手は、
競馬より
ずっと難しい。
でも――
逃げない。
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