第17話 大学生のままで、いられる期限

講義中。


 教授の声が、やけに遠く感じた。



「――就職とはですね」


 黒板に書かれる文字。


(就職、か)


 前世では、

 深く考えなかった言葉。



 単位を取って、

 流れで内定をもらって、

 流れで社会に出た。


 そして――

 失敗した。



(今回は、違う)


 そう思っていたはずなのに。



 ノートを見る。


 数字じゃない。

 理論でもない。


 **「将来」**という、

 曖昧すぎる二文字。



 講義後。


 ひよりと、学食で向かい合う。


「どうしたの?」


「……大学生って、

 いつまでだと思います?」


 ひよりは、箸を止めた。



「急に重い」


「ですよね」



「でもさ」


 ひよりは、少し考えて言う。


「期限があるから、

 考えるんじゃない?」



 その通りだ。


 学生は、

 “猶予”がある立場。


 でも――

 無限じゃない。



「競馬」


「はい」


「投資とか、分析とか」


「はい」


「全部、

 “大学生の遊び”で

 済まされるの、今だけだよ?」



 その言葉が、

 胸に刺さった。



(肩書きは、盾だ)


 今は守ってくれる。

 でも――

 いずれ消える。



 家に帰って、

 将来設計を紙に書く。


・卒業まで

・卒業後

・競馬との距離

・ひよりとの未来


(前世では、

 書かなかった項目だ)



 就職。


 起業。


 投資一本。


 どれも、

 正解にも、

 地雷にもなる。



「……焦るな」


 独り言が、

 やけに大きく聞こえた。



 桐生こういちは、

 ようやく理解した。


 今は、稼げているだけ。


 でも――

 生き方は、

 まだ決まっていない。



 競馬で学んだのは、

 勝ち方じゃない。


 引き際を考える力だ。



 大学生でいられる時間は、

 限られている。


 だからこそ。


(この期間を、

 一番うまく使う)


 それが、

 今の俺の

 最大の勝負だった。

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