第14話 恋人になってからの、初めての勝負
その日は、
やらないという選択肢がなかった。
*
重賞。
メンバー、揃いすぎ。
馬場、完璧。
(条件が、噛み合いすぎている)
前世でも、
この手のレースは
“当てにいける”部類だった。
*
「桐生くん」
ひよりが、少し緊張した声で言う。
「今日……勝負?」
「……はい」
即答できなかったのが、
すでに答えだった。
*
ベンチに座り、
二人で最後の確認。
「資金、普段の二倍まで」
「了解」
「外れたら、そこで終了」
「うん」
ひよりは頷く。
でも、
手は少しだけ震えていた。
*
(前なら、気づかなかった)
今は、
それが分かる。
*
「大丈夫です」
俺は、静かに言った。
「勝つから、じゃない」
ひよりを見る。
「負けても、壊れない」
*
その言葉で、
ひよりの肩の力が抜けた。
「……それ、ずるい」
*
買い目は、
絞りに絞った。
点数を増やせば、
安心できる。
でも――
それは“逃げ”だ。
*
発走。
スタンドのざわめき。
鼓動が、
自分でも分かるくらい早い。
(これが――
誰かと賭ける重さ)
*
直線。
「来る……!」
ひよりの声。
俺は、
ただ前を見ていた。
*
ゴール。
一瞬の沈黙。
*
「……当たった」
ひよりが、息を吐く。
「……ですね」
*
大勝ち、ではない。
でも――
今までで一番、意味のある的中だった。
*
配当表示。
ひよりが、目を丸くする。
「え……これ」
「はい」
「普通に、
生活変わるやつじゃん」
*
俺は、静かに頷いた。
*
帰り道。
ひよりが、
俺の腕をぎゅっと掴む。
「……ねえ」
「はい」
「私、今日思った」
少し、真剣な声。
「桐生くんとなら」
一拍置いて。
「怖い勝負でも、
逃げなくていい」
*
その言葉は、
どんな配当よりも重かった。
*
桐生こういちは、
初めて理解した。
金を賭ける怖さと、
人を賭ける覚悟は、
同じ重さだ。
そして――
今回は、
どちらも守れた。
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