第13話 付き合ったら、世界が少しうるさくなった
付き合い始めて、一番変わったのは――
周囲の反応だった。
*
「え、マジで?」
バイト先の先輩が、目を丸くする。
「桐生と白石って、
あの二人?」
「はい」
ひよりが、あっさり答えた。
*
別に、隠してたわけじゃない。
でも、わざわざ言ってもいなかった。
それでも――
空気は、ちゃんと変わる。
*
競馬場。
並んで座るだけで、
視線を感じる。
(前は、こんなことなかった)
*
「桐生くん」
「はい」
「私たち、目立ってる?」
「少しだけ」
「やっぱり」
でも、ひよりは嫌そうじゃなかった。
*
競馬への向き合い方も、変わった。
感情が入る分、
判断が鈍るリスクがある。
だから俺は、
ルールを一つ増やした。
*
「大きい勝負の日は、
感情が落ち着いてから買う」
「……恋人ルール?」
「投資ルールです」
「はいはい」
*
それでも。
予想精度は、
むしろ安定した。
*
「不思議だね」
ひよりが言う。
「一人より、
冷静になれる」
「責任が増えたからですね」
「それ、嬉しい」
*
ある日。
常連のおじさんが声をかけてきた。
「兄ちゃん」
「はい?」
「最近、勝ちすぎじゃねえか?」
一瞬、空気が止まる。
*
俺は笑った。
「たまたまですよ」
正しい嘘。
*
ひよりは、横で何も言わない。
その沈黙が、
何より心強かった。
*
家に帰ってから、
ひよりがぽつりと言う。
「……ああいうの、
増えるよね」
「はい」
「でも」
少し間を置いて。
「私、桐生くんの
邪魔はしない」
*
それは、
信頼の言葉だった。
*
桐生こういちは知っている。
恋人ができると、
勝負は難しくなる。
でも――
一人で勝つより、
守りながら勝つ方が強い。
それを、
前世では学べなかった。
*
今は、違う。
ひよりが隣にいる。
世界は少しうるさくなったけど、
判断は、
むしろ静かだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます