第13話 付き合ったら、世界が少しうるさくなった

付き合い始めて、一番変わったのは――

 周囲の反応だった。



「え、マジで?」


 バイト先の先輩が、目を丸くする。


「桐生と白石って、

 あの二人?」


「はい」


 ひよりが、あっさり答えた。



 別に、隠してたわけじゃない。

 でも、わざわざ言ってもいなかった。


 それでも――

 空気は、ちゃんと変わる。



 競馬場。


 並んで座るだけで、

 視線を感じる。


(前は、こんなことなかった)



「桐生くん」


「はい」


「私たち、目立ってる?」


「少しだけ」


「やっぱり」


 でも、ひよりは嫌そうじゃなかった。



 競馬への向き合い方も、変わった。


 感情が入る分、

 判断が鈍るリスクがある。


 だから俺は、

 ルールを一つ増やした。



「大きい勝負の日は、

 感情が落ち着いてから買う」


「……恋人ルール?」


「投資ルールです」


「はいはい」



 それでも。


 予想精度は、

 むしろ安定した。



「不思議だね」


 ひよりが言う。


「一人より、

 冷静になれる」


「責任が増えたからですね」


「それ、嬉しい」



 ある日。


 常連のおじさんが声をかけてきた。


「兄ちゃん」


「はい?」


「最近、勝ちすぎじゃねえか?」


 一瞬、空気が止まる。



 俺は笑った。


「たまたまですよ」


 正しい嘘。



 ひよりは、横で何も言わない。

 その沈黙が、

 何より心強かった。



 家に帰ってから、

 ひよりがぽつりと言う。


「……ああいうの、

 増えるよね」


「はい」


「でも」


 少し間を置いて。


「私、桐生くんの

 邪魔はしない」



 それは、

 信頼の言葉だった。



 桐生こういちは知っている。


 恋人ができると、

 勝負は難しくなる。


 でも――

 一人で勝つより、

 守りながら勝つ方が強い。


 それを、

 前世では学べなかった。



 今は、違う。


 ひよりが隣にいる。


 世界は少しうるさくなったけど、

 判断は、

 むしろ静かだった。

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