第12話 それはもう、ただのパートナーじゃない
競馬場じゃない休日。
それだけで、少しだけ空気が違った。
*
「……で、ここ来るんだ」
ひよりが、店の看板を見上げる。
「たまには、ですね」
「たまにしては、
妙に緊張してるけど?」
バレてた。
*
競馬の話をしない。
レース時間も気にしない。
ただ、同じテーブルで、
同じメニューを見る。
それだけなのに――
(こんなに落ち着かないとは)
*
「桐生くんさ」
料理を待ちながら、ひよりが言う。
「私たちって、
もう“普通”じゃないよね」
「……どの辺がですか」
「全部」
即答だった。
*
笑いながらも、
目は真剣。
「競馬の相棒で、
お金の話もして、
将来の話もして」
一拍置いて。
「それってさ」
声が、少しだけ低くなる。
「恋人の距離じゃない?」
*
逃げ道は、なかった。
*
「……俺は」
言葉を選ぶ。
「軽い気持ちじゃないです」
「うん」
「ひよりを巻き込むなら、
中途半端はしない」
それは、
競馬より重い宣言だった。
*
「それ、さ」
ひよりは、ふっと笑う。
「私が聞きたかった答え」
*
テーブルの下。
指先が、触れる。
絡めない。
でも、離れない。
*
「ねえ」
「はい」
「桐生くんってさ」
「?」
「勝つの、上手いよね」
「……競馬は」
「違う」
ひよりは、はっきり言った。
「人との距離の取り方」
*
胸の奥が、熱くなる。
*
「だから」
ひよりは、まっすぐ見てくる。
「私と、ちゃんと付き合って」
疑問形じゃない。
*
答えは、
最初から決まっていた。
「はい」
*
それだけ。
でも――
今までで、一番重い返事だった。
*
店を出た後。
夜風が、少し冷たい。
ひよりは、
自然に腕を組んできた。
(……ああ)
戻れない。
でも、悪くない。
*
桐生こういちは、
白石ひよりを“守るべき存在”として選んだ。
競馬より、
ずっと難しい勝負。
それでも――
今回は、
逃げないと決めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます