第12話 それはもう、ただのパートナーじゃない

競馬場じゃない休日。


 それだけで、少しだけ空気が違った。



「……で、ここ来るんだ」


 ひよりが、店の看板を見上げる。


「たまには、ですね」


「たまにしては、

 妙に緊張してるけど?」


 バレてた。



 競馬の話をしない。

 レース時間も気にしない。


 ただ、同じテーブルで、

 同じメニューを見る。


 それだけなのに――


(こんなに落ち着かないとは)



「桐生くんさ」


 料理を待ちながら、ひよりが言う。


「私たちって、

 もう“普通”じゃないよね」


「……どの辺がですか」


「全部」


 即答だった。



 笑いながらも、

 目は真剣。


「競馬の相棒で、

 お金の話もして、

 将来の話もして」


 一拍置いて。


「それってさ」


 声が、少しだけ低くなる。


「恋人の距離じゃない?」



 逃げ道は、なかった。



「……俺は」


 言葉を選ぶ。


「軽い気持ちじゃないです」


「うん」


「ひよりを巻き込むなら、

 中途半端はしない」


 それは、

 競馬より重い宣言だった。



「それ、さ」


 ひよりは、ふっと笑う。


「私が聞きたかった答え」



 テーブルの下。


 指先が、触れる。


 絡めない。

 でも、離れない。



「ねえ」


「はい」


「桐生くんってさ」


「?」


「勝つの、上手いよね」


「……競馬は」


「違う」


 ひよりは、はっきり言った。


「人との距離の取り方」



 胸の奥が、熱くなる。



「だから」


 ひよりは、まっすぐ見てくる。


「私と、ちゃんと付き合って」


 疑問形じゃない。



 答えは、

 最初から決まっていた。


「はい」



 それだけ。


 でも――

 今までで、一番重い返事だった。



 店を出た後。


 夜風が、少し冷たい。


 ひよりは、

 自然に腕を組んできた。


(……ああ)


 戻れない。


 でも、悪くない。



 桐生こういちは、

 白石ひよりを“守るべき存在”として選んだ。


 競馬より、

 ずっと難しい勝負。


 それでも――

 今回は、

 逃げないと決めていた。

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