第10話 勝ち続けると、税務署が視野に入る
その封筒は、
ある意味、万馬券より怖かった。
*
「……確定申告、か」
スマホの検索画面を見ながら、
俺は静かに息を吐いた。
(忘れてたわけじゃない)
ただ――
意識しないようにしていただけだ。
*
競馬の払戻金。
一時所得。
控除、50万円。
そこを超えた分は、
しっかり課税対象。
(……超えてるな)
とっくに。
*
前世では、
ここで詰んだ。
調子に乗って、
無申告。
追徴。
一気に崩壊。
(同じミスはしない)
*
競馬場のベンチ。
俺は、ひよりに切り出した。
「ひより」
「なに、急に真顔」
「税金の話です」
「……え」
ひよりの表情が、一気に引き締まる。
*
「もう、申告しないと
マズいラインです」
「え、ちょっと待って」
「はい」
「それって……
“かなり勝ってる”ってこと?」
「かなり、ですね」
*
ひよりは、しばらく黙った。
それから、小さく笑う。
「……桐生くん」
「はい」
「ほんとに、普通じゃない」
*
「でもさ」
すぐに、真剣な声になる。
「ちゃんとやろう。
逃げないで」
「最初から、そのつもりです」
だから、言った。
*
家に帰って、
俺は過去のレース結果を全部整理した。
購入額。
払戻。
日付。
淡々と、機械みたいに。
(これが、“勝ち続ける責任”か)
*
数日後。
税理士の無料相談。
「……学生さんで、
これは珍しいですね」
苦笑される。
でも、責められなかった。
ちゃんと申告する人間だからだ。
*
帰り道。
ひよりが言った。
「なんかさ」
「はい」
「大人の世界に
足突っ込んだ感じするね」
「ですね」
*
それでも。
俺の心は、不思議と落ち着いていた。
金が増えても。
税金がかかっても。
(管理できてる)
それが、前世との決定的な違いだ。
*
桐生こういちは知っている。
本当の金持ちは、
派手に勝つ人間じゃない。
静かに、
正しく、
逃げずに処理できる人間だ。
*
そして――
ひよりは、その隣に立っている。
それが、
いつの間にか当たり前になっていた。
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