第8話 二人で組むと負けなくなるらしい
結論から言うと――
負けなくなった。
いや、正確には「ほとんど減らなくなった」。
*
二人で競馬パートナーになってから、
俺たちのやり方は徹底していた。
「今日は三レースだけにしよ」
「了解です」
「メイン外したら?」
「そこで終了ですね」
この会話が、毎回当たり前のように交わされる。
(前世の俺なら考えられない)
*
ひよりは感覚派だ。
でも、データを無視しない。
俺は理屈派だ。
でも、流れを軽視しない。
二人の予想は、
自然と噛み合った。
*
「これ、桐生くん」
競馬場のベンチで、ひよりが言う。
「地味だけど、来ると思う」
指差したのは、
人気薄でも、条件が揃った一頭。
「……同じです」
「え」
「軸はそこですね」
二人で顔を見合わせる。
「なんかさ」
ひよりが笑う。
「当たる前から安心できるの、変な感じ」
*
結果は、的中。
配当は大きくない。
でも、確実なプラス。
*
それが、一度じゃなかった。
二週。
三週。
一か月。
(……あれ?)
俺は通帳を見て、首を傾げた。
*
増え方が、
おかしい。
爆発していないのに、
減りもしない。
まるで、
「積み立て」みたいに増えている。
*
「最近さ」
バイト終わり、
ひよりが何気なく言った。
「桐生くん、金欠って言わなくなったよね」
「……言わなくなりましたね」
「前は、飲み物一杯でも悩んでたのに」
痛いところを突かれる。
*
気づけば、
競馬の収支はバイト代を超えていた。
それでも――
俺は何も変えなかった。
・買う額
・買うレース
・引き際
全部、そのまま。
*
「欲、出ないの?」
ひよりが不思議そうに聞く。
「出した瞬間、終わるので」
「……こわ」
「経験則です」
前世の、な。
*
ある日のメインレース後。
「今日もプラス」
ひよりがスマホを見て言う。
「ねえ、桐生くん」
「はい」
「私たち、これ……
ちゃんと勝ってない?」
「勝ってますね」
はっきり言った。
*
ひよりは少し黙ってから、笑った。
「じゃあさ」
「?」
「このコンビ、解散なしってことで」
差し出された小指。
(小学生か)
そう思いながらも、
俺は指を出した。
「……了解です」
*
こうして。
桐生こういちと白石ひよりは、
負けない競馬パートナーとして、
静かに、しかし確実に歩き始めた。
まだ誰も気づいていない。
この二人が――
そのうち、普通じゃない金額を動かすことになるなんて。
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