第8話 二人で組むと負けなくなるらしい

 結論から言うと――

 負けなくなった。


 いや、正確には「ほとんど減らなくなった」。



 二人で競馬パートナーになってから、

 俺たちのやり方は徹底していた。


「今日は三レースだけにしよ」


「了解です」


「メイン外したら?」


「そこで終了ですね」


 この会話が、毎回当たり前のように交わされる。


(前世の俺なら考えられない)



 ひよりは感覚派だ。

 でも、データを無視しない。


 俺は理屈派だ。

 でも、流れを軽視しない。


 二人の予想は、

 自然と噛み合った。



「これ、桐生くん」


 競馬場のベンチで、ひよりが言う。


「地味だけど、来ると思う」


 指差したのは、

 人気薄でも、条件が揃った一頭。


「……同じです」


「え」


「軸はそこですね」


 二人で顔を見合わせる。


「なんかさ」


 ひよりが笑う。


「当たる前から安心できるの、変な感じ」



 結果は、的中。


 配当は大きくない。

 でも、確実なプラス。



 それが、一度じゃなかった。


 二週。

 三週。

 一か月。


(……あれ?)


 俺は通帳を見て、首を傾げた。



 増え方が、

 おかしい。


 爆発していないのに、

 減りもしない。


 まるで、

 「積み立て」みたいに増えている。



「最近さ」


 バイト終わり、

 ひよりが何気なく言った。


「桐生くん、金欠って言わなくなったよね」


「……言わなくなりましたね」


「前は、飲み物一杯でも悩んでたのに」


 痛いところを突かれる。



 気づけば、

 競馬の収支はバイト代を超えていた。


 それでも――

 俺は何も変えなかった。


・買う額

・買うレース

・引き際


 全部、そのまま。



「欲、出ないの?」


 ひよりが不思議そうに聞く。


「出した瞬間、終わるので」


「……こわ」


「経験則です」


 前世の、な。



 ある日のメインレース後。


「今日もプラス」


 ひよりがスマホを見て言う。


「ねえ、桐生くん」


「はい」


「私たち、これ……

 ちゃんと勝ってない?」


「勝ってますね」


 はっきり言った。



 ひよりは少し黙ってから、笑った。


「じゃあさ」


「?」


「このコンビ、解散なしってことで」


 差し出された小指。


(小学生か)


 そう思いながらも、

 俺は指を出した。


「……了解です」



 こうして。


 桐生こういちと白石ひよりは、

 負けない競馬パートナーとして、

 静かに、しかし確実に歩き始めた。


 まだ誰も気づいていない。


 この二人が――

 そのうち、普通じゃない金額を動かすことになるなんて。

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