第7話 二人で賭ける、という選択
その日は、競馬場じゃなく――
駅前のファミレスだった。
バイト終わり、
ドリンクバーを挟んで向かい合う俺とひより。
「ねえ、桐生くん」
ひよりがストローをくるくる回しながら言う。
「これからさ」
少しだけ、間を置いて。
「競馬、一緒にやらない?」
「……今までも一緒にやってた気はしますが」
「違う違う」
ひよりは首を振る。
「その場のノリじゃなくて、
ちゃんと“組む”って意味」
(組む、か)
その言葉は、思ったより重かった。
*
「例えばさ」
ひよりはスマホを取り出す。
「レース前に一緒に考えて、
買い目も相談して、
勝っても負けても反省会する」
「……真面目ですね」
「競馬は真面目にやる派なので」
胸を張るひより。
確かに、彼女は感覚派だけど、雑じゃない。
穴狙いでも、理由は必ずある。
(相性は、悪くない)
いや――
むしろ、かなりいい。
*
「ただし」
俺は条件を出した。
「無理はしない。
取り返そうとしない。
資金管理は最優先」
「うん」
即答だった。
「あと、俺の意見が絶対じゃない」
「それも分かってる」
ひよりは笑う。
「一緒に決めるんでしょ?」
……ずるい言い方だ。
*
その場で、簡単なルールを決めた。
• 資金は別々
• 買い目は共有
• 最終判断は各自
• 負けても、相手を責めない
「なんか」
ひよりが言う。
「競馬の同盟みたい」
「破棄されないといいですね」
「しないしない!」
即答で、少しだけ照れた。
*
翌週。
二人並んで、競馬場のベンチに座る。
「じゃ、今日のメイン」
「はい」
ひよりが先に意見を言う。
「ペースは速くなる。
だから差し馬」
「同意です」
俺も頷く。
「ただ、内が伸びてる。
差すならこの枠」
「……なるほど」
二人の意見が、自然と重なっていく。
(これが、パートナーか)
*
レース後。
「……当たったね」
「ですね」
大勝ちじゃない。
でも、納得のいく的中。
「桐生くん」
ひよりが、少し真面目な声で言う。
「これからも、よろしく」
「こちらこそ」
その一言が、
不思議なくらい自然に口から出た。
*
競馬は、一人でもできる。
でも。
考えを共有して、
責任を分け合って、
同じ結果を受け止める。
それは、前世の俺が知らなかった楽しみ方だ。
桐生こういちは、
白石ひよりを“競馬仲間”以上の存在として意識し始めていた。
……まだ、本人には言わないけど。
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