第7話 二人で賭ける、という選択

 その日は、競馬場じゃなく――

 駅前のファミレスだった。


 バイト終わり、

 ドリンクバーを挟んで向かい合う俺とひより。


「ねえ、桐生くん」


 ひよりがストローをくるくる回しながら言う。


「これからさ」


 少しだけ、間を置いて。


「競馬、一緒にやらない?」


「……今までも一緒にやってた気はしますが」


「違う違う」


 ひよりは首を振る。


「その場のノリじゃなくて、

 ちゃんと“組む”って意味」


(組む、か)


 その言葉は、思ったより重かった。



「例えばさ」


 ひよりはスマホを取り出す。


「レース前に一緒に考えて、

 買い目も相談して、

 勝っても負けても反省会する」


「……真面目ですね」


「競馬は真面目にやる派なので」


 胸を張るひより。


 確かに、彼女は感覚派だけど、雑じゃない。

 穴狙いでも、理由は必ずある。


(相性は、悪くない)


 いや――

 むしろ、かなりいい。



「ただし」


 俺は条件を出した。


「無理はしない。

 取り返そうとしない。

 資金管理は最優先」


「うん」


 即答だった。


「あと、俺の意見が絶対じゃない」


「それも分かってる」


 ひよりは笑う。


「一緒に決めるんでしょ?」


 ……ずるい言い方だ。



 その場で、簡単なルールを決めた。

• 資金は別々

• 買い目は共有

• 最終判断は各自

• 負けても、相手を責めない


「なんか」


 ひよりが言う。


「競馬の同盟みたい」


「破棄されないといいですね」


「しないしない!」


 即答で、少しだけ照れた。



 翌週。


 二人並んで、競馬場のベンチに座る。


「じゃ、今日のメイン」


「はい」


 ひよりが先に意見を言う。


「ペースは速くなる。

 だから差し馬」


「同意です」


 俺も頷く。


「ただ、内が伸びてる。

 差すならこの枠」


「……なるほど」


 二人の意見が、自然と重なっていく。


(これが、パートナーか)



 レース後。


「……当たったね」


「ですね」


 大勝ちじゃない。

 でも、納得のいく的中。


「桐生くん」


 ひよりが、少し真面目な声で言う。


「これからも、よろしく」


「こちらこそ」


 その一言が、

 不思議なくらい自然に口から出た。



 競馬は、一人でもできる。

 でも。


 考えを共有して、

 責任を分け合って、

 同じ結果を受け止める。


 それは、前世の俺が知らなかった楽しみ方だ。


 桐生こういちは、

 白石ひよりを“競馬仲間”以上の存在として意識し始めていた。


 ……まだ、本人には言わないけど。

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